ディヌ・リパッティ 夭折した天才ピアニストを聴く

 1917年に生まれ、1950年に亡くなっているから享年33歳ということになる。残された録音で、つとに有名なのはショパンのワルツを亡くなる年の1950年7月に録音されている14曲収録したレコードだ。でも、今回聴いたのは1950年9月16日に開催されたブザンソン音楽祭のライヴ録音だ。この時に収録できたのはワルツ13曲で14曲目が無いのである。
 それはリパッティが病に冒されており、13曲を引く間にも休憩を挟んで弾き続けるのだが、最後の14曲目を弾く力を奪われてしまった。そして、わずか3か月後の12月2日に昇天されている。そんな貴重な録音であり、しかも見本版のレコードなのでレコード自体も貴重な資料だと思う。

 レコード盤の状態はあまり良くなくスクラッチノイズがひどい、何回も洗っているのだけどクリアにならない。それでも、ピアノの響く音は高潔で聴くものを魅了してならない。演奏のどこにも崩落するような予兆はないし、一点の陰りもなく実に素晴らしく、どこまでも音色が続くように思えてしまう。
 ピアノのタッチはしっかりしていて力強いのだけど奏でる音は森の木漏れ日のような優しさに溢れている。録音時間は30分22秒あるけれど、あっと言う間に針が同じ週を回ってしまう。レコードなので片面にしたら15分ほどだから確かに短いのだけど、それよりも圧倒的に短く感じる。いつも片面を聴き終わるたびに、しばしボゥーッとしてしまう。きっと力尽きるまで純粋にピアノを奏でる音に弾き摺り込まれてしまうのだと思われる。