輪違屋糸里を読んでみた  浅田次郎 著

 輪違屋はお座敷に上がる太夫を置いている置屋で1688年創業であり現存している老舗だそうだ。芸妓さんの中で芸を極めたものが太夫で格式が大名に並ぶほどに格式が高く、その一歩手前が天神らしい。糸里は天神で新撰組の内紛と関わりがあった物語り。


 新撰組に関わる物語を3話書かれているけれど、これは京都島原の太夫を中心とした女の生きる力強さを描いたもので新撰組をはじめとする侍はどことなく卑屈に視える。時代の狭間の中でいきる男女ではあるものの男は滅する方へと流れ、女は生を育む方へ立つ、その凛とした清楚な光がうっすらと漂うかのように描かれている。
 文章に澱みがなく講談師のような調べがあり緊張と緩みの間合いも優れている。これだけすらすらと読める心地よさは大したものだと思う。他の2話は少々まとわりつくようなねっちりとしたところがあるけれど、これはほどよく身を任せて読んでいける。