ノンフィクションかと思って読んでみたら、普通に小説だった。 原題はピアノ調律者なんだけど、ノベルティらしい邦題になっている。
中年の調律師がピアノの調律を頼まれていた教室の先生が亡くなって、その旦那と縁が深まるなかで主人公の人生がポツリポツリと語られる。天才音楽家と自負して貧しい家庭環境に悲哀を漂わせて前半が進むのだけど、優柔不断で卑屈なところがうまく描かれている。
後半はピアノ販売のビジネスな話になるのだけど主人公が提案しており、彼にそんな商売のセンスがあったなら他の人生を歩んでいたように思える。そしてピアノを訪ねてはいるけれど尋ねてはいない。尋ねているのはピアノではなく他人の人生を覗き見た過去の思いではないのだろうか。そしてフジコ・ヘミングの逸話が唐突に挿入されて違和感だけが残る。
ピアノの持つ音色も様々だけど、弾く人のタッチでも随分と変わってしまう。それを文章に表現することはとても難しいように思える。