タムラ THS-30 MCトランスを組んでみた

  昇圧の倍率が10倍ほどのインプットトランスを探していた。SPU SynergyやGoldring Elite、audiotechnica AT33Saなどの出力電圧はそこそこあるので、低めの昇圧にして小さい音のボリュームの管理幅を拡げて、夜静かな時にボリュームの調整幅を拡げようと思った。


 当初は、ルンダールのLL1931あたりが良いなと思ったのですが、高いので海外から買おうかと悩んでいる内に円高になってしまった。入力トランスは海外製の評価が高く国産は低い傾向にあるけれど、いかがなものかと思い調べてみたところ、タムラのトランスが春日無線で売っているのですが、これも結構な値段で振り出しに戻ってしまった。

 出力トランスで有名なタムラなら入力トランスも良いだろうということで古いカタログを調べてみると、THS-30が600Ω:60kΩで昇圧が10倍になります。インピーダンスの比率は巻線比となり100倍ですが、昇圧は√になるので10倍です。f特も20-20kで良さそうです。同じ10倍のものでTK-4があるのですが、f特が50-10kと狭すぎるのでTHS-30を探すことにしました。

 これが運よく手に入りました。現物を見て思いのほか小さいので少し驚きました。カタログにも26φの高さ23㎜とあるのですから、わかっていたはずですが、見るとやっぱり小さい。


 導通を確認するのにテスターは直流なので磁化するのを避けるため、ヘッドフォンジャックにオス‐オスのコードとワニ口クリップとイヤフォンをトランスにつないで音を確認したのだけどなぜかでない。少々ガックリしまがら、テスターで測ったら、680Ωと67kΩと導通がありほっとした次第です。

 しかし、日本製にしては表示に対してそれなりに誤差があり珍しい。それにしても何故音が出なかったのか不思議で何度かやり直したら、音が出ました。素性の良さそうな鳴り方をしています。


 トランスが無事だったのでハモンドのアルミダイカストとRCAジャックを購入、トランスが小さいしPassの切替もなしにしたので、ケースは1590Bでサイズが60*112*31mmと小ぶりでハモンド純正塗装のレッドにした。レッドと言ってもかなり黒系統なので落ち着いた色合いになっている。

 今回の制作で少々面倒なのは、トランスを取り付ける穴です。取付板がついてこなかったので、21φの穴を空けるわけにはいかず、センターにあるM3のネジ穴の周りに長方形の穴を2つ空けて、トランスのタップを通さなければならない。

 そこで複数の穴を空けて繋ぐのだけど、穴の空け方を間違えてしまい穴がつながらず面倒なことになった。それでも粗い目の小さなヤスリがあって助かった。これがなかったら、どれほど時間のかかったことやら。


 アルミケースの中にすっぽりとトランスが嵌った姿は割合に似合っている。RCAジャックを取り付け、アース端子を取り付ける。アース端子はM3のキャップボルトにアースリング(アースタグ)を付けてナットで締めて固定する。飛び出しているネジ部に基板用を止める六角スペーサを付けるとターンテーブルからのアースを止めやすい。アースリングが入手しにくいのだが、https://www.garrettaudio.com/ >その他>MiscellaneousにあるKeystoneがとても便利です。


 配線に関しては、プラス側がモガミのネグレックス(OFC導体)、マイナス側がWestern Electricnの単線を使用。わざわざ線種を変えているけど、こだわりがあったわけではなく残り物の都合です。ちなみにハンダはドイツのWBT無鉛で銀入りタイプ。

 トランスの5番がシールドなのでアースに繋ぐのだけど、入力側の2番タップが空いているので、2-5番をつないで入力側のマイナスをアースへ回してみる。以前に入力側がバランス接続の時に見た配線です。今回はアンバランスだし、特段に意味はないのですがテストです。どっちみち出力側をアースにつながないので、2番を繋ぐ必要はないのでしょうが。


 さてと出来上がり、セッティングです。ターンテーブルのアースとトランス、そしてフォノイコとトランスの間にアースを結ぶと盛大なハム音が消えて、結構な静寂です。静かであるということは魅力で、CDは無音時の静寂が良いのでSN比が高くなるのだと思います。

 視聴はいつもの通り、Waltz for Debbie。右にエヴァンスのピアノ、左にラファロのベースとポールのドラム。なんと、ベースとドラムの音が出ていません。ハンダの接触確認もしたのに、そんな馬鹿なと思って蓋を開けて見たら、トランスの入力と出力のプラス側が反対につないである。

 入れ替えて再度試聴、うん綺麗に出ている。最初の出音は大抵曇るのだけど、これは素直に音が出てくる。とりあえず数枚レコードを聴いてみる。

 カートリッジはaudiotechnica AT33Sa、フォノイコはマランツ回路の真空管、静かな水面から透きとおって泳ぐ小さな灰褐色な背びれが数えられる雰囲気の音がする。カートリッジの特性が良く出ている。低域も損なわれずにいい塩梅で、f特の特性通りに思える。こういったところは日本製だなぁと感心してしまう。

 国内のMCトランスで良い意見のページを見たことがなく、特性は良いのだけど音楽的なまとまりが今一と言うのが通になりすぎているのではないか。聴く限り外連味のない実に素直な音に聴こえる。

 海外のトランスは余韻の響きに艶がのったり、明るくクッキリだったり、わずかにウェルでノスタルジっぽい的なところが特徴なのだろう。でもこのTHS-30は実直でオーケストラを聴くとダイナミックレンジの広さを感じられるし、ビバップなジャズは明瞭で端正な音を聴ける。これでケーシング代も含めて福沢諭吉で済むのだから、大したものです。

PS.
 もともとオルトフォン SPU SYNERGYの音をフルに弾きだそうとして、昇圧10倍のトランスを探してたいたので、カートリッジを切り替えてみた。こんなに上手く嵌ってくれてうれしい。やっぱり、素直でf特の広い明晰なトランスを経由して聴くとしシナジーの太くて歯切れ良い臨場感あふれる音楽が溢れ出てきた。

オルトフォン SPU SYNERGY