PRINCIPLES (人生と仕事の原則) レイ・ダリオ 著 斎藤 聖美 訳

  ブリッジウォータという世界最大となったヘッジファンドの創設者レイ・ダリオが重ねてきた思考と実践を著した本を読んだ。投資のノウハウかと思ったらそうではなくて物事をなしえてゆくために論理的なフレームワークを展開する内容であり、人と協同して進めるにあたっての原則が書かれている。
 その基点となるのは、目標の設定と自分で考えるということ、そしてアイデアを主幹として透明性を高めていくことで良い人間関係と良い仕事ができ、やりがいと達成感が得られ幸福度があがるというという展開です。

 基本的に書いてあること自体は他でも見られることですが、それを体系立ててシステム化しナビとして活用できるようにしているところがすごいと思う。
 これを読むとトヨタ生産方式の考え方と酷似している。感情に左右されない様に注意し、事実を見極めるというのはトヨタ用語の『現地・現物』であり、問題点や失敗から要因を探り対策するのは、『改善』そのものだし、トヨタの工場に『良い品、良い考え』」という大きな看板が掲げられていたのですが、この本では良いアイデアが良い仕事をもたらすとしています。
 また、要因を探るのに表面的なことだけではなく真因を探すとありますが、これなどは『なぜを5回繰り返せ』というトヨタ用語があります。そして両社ともに考え方を体系立てているだけではなく実践するにあたり研修を積み重ねている点も同様です。

 この本では5ステップでの展開としていますが、目標+PDCAと置き換えてもいいかと思います。これだとなぜブリッジウォーターは凄いのかとなるのですが、それはDoの部分で感情に左右されずにどう論理的な議論をするのかということで、人の性格を判断し組合せやミッションに適切な人材を選び出し意見を得る仕組みがシステムとして構築してある点にあると思います。
 ドットコレクターというシステムで数十種類の性格属性に分けて分析し、それを会議者が閲覧できるし、会議の中で点数づけも行う仕組みになっている。これは余程会社の信頼性がないと耐えられないように思える。
 これに慣れるまで18カ月間は必要だと記されているし、性格判断だけではなく会社の運営や人事評価などにおいても透明性が高くないと維持できない。透明性を維持できるかどうかは経営幹部の意思によるわけだから、幹部は聡明で教養がありモラルの高い人でないといけない。
 未だ創業者が健在だからいいのですが、どこまで堅持できるかは未知数のように思えます。あわせて高い生産性を求められるのですから、当然合わない人も出てくるわけですから、退社を進めることも前提のようで日本では難しい面もあります。
 しかし、人の性格判断するテストは随分と正確になってきていますし、どの業務にどのような性格が合うのかも設定できると思うので、人員採用において構築すべきだと思うし、数年ごとに性格テスト行い適材適所を組合わせるのは非常に有効だと思えます。
 また、仕事の履歴や成果、性格なども野球カードと称される人事データベースに蓄積され閲覧できるようになっています。人事評価のやり方をかいていないので残念ですが、仕事内容の履歴がありスキルがわかるのは良いことだと思います。
 この仕組みがある会社でないと多様性を包括し、国を超えた人材活用が必要なグローバル展開は無理だと思えます。それにしても感情論をさけた議論を行うことがいかに難しいかということが良く解りますし、
 忖度などという行為はまさしく感情での行動であり、個人にしか利益が生まれず、利益の最小化を起こしていると思われます。
 未来についてよく分からないことを決断する場面は日常的に起こるわけですが、そのタイミングですべきかどうかが重要であり、博打のようにならざる得ない時、リスクヘッジの手も考えるべきです。それを補佐するシステムとしてコーチなるものがあるというのは宝のように見えます。

 本の厚さが太くて570ページほどあり、読むのが大変だと思う場合はブリッジウォーターの歴史部分だけでも読むといいと思います。本書では、ここは読み飛ばしてもいいと書いてありますが、逆のように思います。
 人生と仕事の原則については真ん中あたりに目次のようなまとめページがあるので、そこを読めばかなりのことが類推できますので、不明に思われる項目を熟読するのもありかなと思います。
 拙者はすでに閑職の身なので新たな仕組み(システム)を作ることはなさそうで残念ですが、製造においてトヨタ生産方式の導入とPCネットワーク黎明期から生産システムを構築し、営業では価格管理や新製品販売ステップなどを構築しましたが、人と人の問題については課題を残したままで、この本を読んでやる人はやるもんだと感心する次第です。

何かの縁でご助力できたらなとも思うこのごろです。


ハドリアヌス帝の回想:レビュー

クラシックレコードの百年史

音階と音律の科学

ティムール以降 ジョン・ダーウィン


MCトランスのUTC A-11を改造する

  UTCのトランスはメリハリがあって明るいのが特徴で、特にこのA-11は高域部分が持ち上がる特性になっている。

 YAMAHA A2000のフォノイコと相性もよくて抜けの良い音を聴かせてくれるわけだけど、A2000にはMCヘッドアンプもあることから、現在はリニアテクノロジーのオペアンプLT1115で作ったフォノアンプに繋いでいる。

 こちらも切れのよいフォノイコなので、少々元気がよすぎるぐらいだ。

3Ωと40ΩとPassの3段階に切り替えができて重宝しているのだか、なにせ3Ωのカートリッジと言えばオルトフォンしか持っておらず、相性があまりよろしくないので使っていない。

それに20Ωあたりのカートリッジが増えてしまって、複数のアームに取り付けると昇圧で困る事態になってしまった。


なので、3Ωを20Ωへ改造しようと思う。

 入力をカートリッジの内部抵抗で表示しているけど、SPU Synergyなどは2Ωですが、出力は0.5mVもあるので、昇圧が30倍もある3Ω表記の入力では大きすぎて使えません。

それなのに推薦負荷インピーダンスが10-50Ωと記載されていて、そんな環境で使える方は限られているのではないかと思ってしまう。

 話がそれてしまいましたが、入力の表記を出力電圧にした方が適切ではないかと思ってしまう。

 A-11は3Ωと40Ωの切替のために、2次側コイルも50kΩと25kΩに切り替えていてちょっと複雑だし、センタータップからの取出しより、フルに使用した方が音が良くなるという説もあるので50kΩに合わせた。

次に1次側コイルは、200Ωと250Ωのいずれかを選ぶのですが、昇圧が各々15.8倍と14.1倍になり、それほど違わないので配線変更の容易な250Ωを選択した。


 ちなみに昇圧の計算は、E2=E1*√(R2/R1) の式に1次側の電圧E1を1Vと仮定すればできるとのことです。(R1:一次側コイル抵抗値、R2:二次側コイル抵抗値)

配線は簡単に終わり、音出しテストにあたってChriskit MK6 に接続したのですが、相性の悪いのを忘れてました。

ボリュームを上げると、なぜか左側のインプットをターンテーブルから繋ぐとブーンという音が気になるのです。

ターンテーブル側の問題かと思い、右側をトランスの左側に入れても唸り音がでます。ターンテーブルのアースの接続の有無に関わらず唸り音がでるのでハムかと思い、以前から気になっていたアースの取りまわしをRCA端子のマイナス側との接続を切って1本にまとめ、フォノイコへもアースを繋ぐように変更しました。

残念なことによりひどくなってしまい、結局元に戻してオペアンプLT1115のフォノイコにつないだのでした。

 さて音の方ですが、何の問題もなく20Ωも40Ωも音が出ました。

40Ωは聴いた時間が短いのでいけませんが、以前と変化がないように思えます。20Ωに関しても良い結果となり、年の初めの試としても嬉しいです。

20Ωの方がLT1115と組み合わせても僅かにトーンが落ち着いてクラシックを聴いても華やかさのなかに和らぎが出てきたようですし、ジャズは旧いバップを聴くと嵌ります。

 カートリッジとの相性では、オーディオテクニカ AT-33Sa、 SAEC C-1、 DENON DL-103が合うようです。

 AT-33Saは精緻でシャープなHiFi系の音なので、明るくてクッキリとした押し出しのあるA-11とは特に相性が優れているようです。
ハイレゾの音の方向ですがデジタルと違って、ほんのりとアンニュイな風合いが、これまたいいんです。

A-11 ケーシング編

ミルティのレコードクリーナーを修繕してみる

  これは英国産のレコードクリーナーで随分と昔から変わらずに売っている。このミルティのレコードクリーナのスポンジ部分が下手って潰れ、クッション性が悪くなったのと、持ち手とクリーナーまでの高さが狭くなり、拭きにくくなってしまった。

 新品を買っても左程の値段ではないので買えばいいのですが、ケースの色が赤茶色から青紺色になっていて、なんとなく風情が乏しく感じられるし、拭く面のビロード自体は綺麗なままなので、ちょっと工作しようかと思います。

 スポンジは台所で使う清掃用もの物があるし、扉の隙間風を防ぐテープもあるので、この中から硬さと高さの良さそうなものを買えば良いと思い、ダイソーへ出かけた。

 本当に100円で何でもあるダイソーにはいつも驚かされて重宝しています。

 売り場でどれにするか悩んでいたら、カミさんが「何故、清掃スポンジを買うの?」と怪訝そうに訊くものだから回答すると、「それなら形状が少し違うけど家にある」といかにも買うなというシグナルを送ってくる。
 なんのことはない、キッチンで使っているのだけど不満があるようで、在庫処理をさせられた。カミさんに逆らうと碌なことがないし、出費が抑えられたので良しと考えるのが仕合せである。
 まずは、ビロードの生地をベリベリと剥がし、裏についた古いスポンジを爪でこすって削ぎ落す。

 次に持ち手のプラスチック部分の面に合わせて、カッターでスポンジを切り落とし、残った面のスポンジを指でお押して、一様に平らに圧縮する。新しいスポンジを大きさに合わせてハサミでカットして合わせてみたら、意外にも高さが大きくてカバーが浮いてしまう。
  仕方がないので高さも合わせてカットした。小さめのハサミで切ったため、カット面に段差が少し出来てしまった。

 ラシャ鋏のような大きいものを使う方が良さそうに思える。さて、次に両面テープを張るのだけど、粘着テープの方が薄くて、カバーしてある保護テープの方が厚く結構剥がしにくい。
 スポンジ面に貼ってから剥がすのは難しいので、先にテープを指に貼り付け、淵の保護テープを剥がしておくと良いようだ。


 遠目から見る分には新品のように見える。試しに使ってみると、思ったよりスポンジが固く感じるけど、このぐらいの方がレコードを拭きやすい。とりあえず、上出来だと思い、使い続けようと思う。

針圧計を買ってみた:レビュー


悲しみのイレーヌを読んでみた ピエール・ルメートル 著 橘 明美 訳

 ピエール・ルメートルの本を2作読んだけど、着想と構想がとてつもなく素晴らしい。しかも文の緩急が絶妙だし、一文一文のリズミカルなテンポに引き寄せられて読み込まれてしまう。
 そう、読んでいる側がいつのまにか文体の中に入ってしまい、しまいには痛みすら感じる嵌めに陥る。


 読み始めて直ぐに、あれ?読んだことあるかとデジャブのような感覚に襲われる。
でも、事の顛末については何も覚えていない。
 きっと『その女アレックス』に出てくる捜査官たちの描写が似ているというか、
同じ表現があるせいだと思われる。この本はデビュー作でパリ警視庁のヴェルーヴェン警部3部作の1作目、『その女アレックス』は2作目にあたる。

 熾烈な描写は、ドラゴンタトゥーの女の映画を思い出してしまう。欧米の錯綜した精神はいつも異次元のように思える。描写やテンポ、展開どれをとっても一級品だけど、構成の凄さは別次元で顕われる。第2部を読めば解かります。

 それにしても、邦題は余りにも無神経で読者を傷つけている。現代はフランス語Travail soigné 直訳だと”丁寧な仕事”になり、売れそうな邦題でないと思えるのは判るけど、
’悪魔は詳細に宿る’の方がマシである。

器材が増えたのでケーブルの配線替えをする

  Topping D90のDACとCDプレーヤーLHH300を同軸で接続してMINIMA FM2をYAMAHA A2000で鳴らしてみたら、D90の骨格の太い低域や伸びる高域など特性は出ているのだけど、ホーリー・コールの艶やかな声が僅かに端正になってしまう。

 それならば、直接繋げばいいのだけどE-470へ繋いでいるコネクターがXLRのためA2000へは接続できない。これは、E-470のRCA接続がいっぱいだったのでRCAとXLRという変則なケーブルにしてあるからです。

 すぐに変えられそうなケーブルは米軍用の銀メッキ線なのだけど、高音域がキラキラするからMUSES03にしてあるCDへ繫ぐと高音域が強調されそうな気がする。
 仕方がないので、両方のコネクターがRCAケーブルのBELDEN88760をマランツタイプのフォノイコライザから外して、RCA⇒XLRのケーブルをE-470とTopping D90に繋いだ。


 そして、米軍用銀メッキ線MIL-W-16878/4をマランツタイプのフォノイコライザーとE-470の接続に使ったら、カートリッジSPU GE ⇒トランスSTA-6600 ⇒ マランツタイプとつながる音が崩れてしまい、SPU GEの良さが薄くなってしまった。
 ケーブルのみでこんなに変わっていいもんだろうかと思いながら元のBELDEN88760に戻す。



 再考して、Chrikit Mk6とE-470を繋いでいるからBELDEN88760をCDの接続に使い、米軍用銀メッキ線MIL-W-16878/4をChrikit Mk6のTape OutからA2000のTape Inに接続してみた。
 これでヘレン・メリルの'S Wonderfulを聴いてみると艶があってよろしい、この曲はガーシュウィン兄弟の曲だけどいろんな人が唄っていて、より色っぽいダイアナ・クラーク、早口で素っ気なく聴こえるアニタ・オデイと拙宅にも3人の音楽ソースがある。
 さて、次にカーメンマクレエのテイク・ファイヴを掛けてみる。いいね、いいですね、AT33Saのキリっと引き締まった端正な音にMINIMA FM2のソナス・ファベールの艶のある色が載っていて、かなりいけます。
 ChirskitのフォノイコライザーはMcIntoshのC22を模倣しているといわれていて、やっぱりジャズに似合うんですね。組合せでいい所がつながることは少ないのでとても嬉しいです。

備考:
①CD ⇒BELDEN88760 ⇒E-470 or A2000

②SPU GE ⇒Victor ⇒STA-6600(transformer) ⇒
 MOGAMI2534 ⇒PhonoEQ(Marantz#7Type) ⇒
 BELDEN88760 ⇒E-470

③AT33Sa ⇒Victor ⇒T-30(transformer) ⇒
 MOGAMI2534 ⇒Mk6 ⇒MIL-W-16878/4(Type E) 
 ⇒A2000


ブルーノ・ワルター指揮のモーツアルト交響曲40番をSPU Synergyで聴く

  ブルーノ・ワルターの晩年1953年と1956年にニューヨークで録音されたモーツアルト交響曲40番と41番のレコードを買いました。

 ブルーノ・ワルターが77歳の時に最高の指揮ができるとは凄いもので、音の積み重ねが年輪の積み重ねになるのは喜ばしいことだと思います。

 演奏するコロンビア交響楽団を調べてみますとコロンビアレコードがブルーノ・ワルターの演奏をステレオ録音するためにセッティングされた楽団らしい。
ハリウッドの楽団員だったりニューヨークの楽団員だったりと録音によって異なり、
このモーツアルトの録音場所はニューヨークなのでニューヨークフィルのメンバーが主体とみたいです。

 

 モーツアルトの交響曲では40番が一番好きですし、ブルーノ・ワルターが
もっとも心地よくモーツアルトを奏でてくれるように思います。
出だしの主題が、軽やかなウキウキするメロディが流れてきてモーツアルトだなぁと浸るように弦を響かせてくれる。

 カートリッジがSPU Synergyだと一段と風合いがでてきて骨太なのに軽やかさが失われずモーツアルトがみずみずしい。
いつ聴いてもなんだか朗らかな気分にしてくれる優しくて暖かくて親しみのあるブルーノ・ワルターの指揮です。


PCOCC導体のリード線を買ってみた

  少しまとまったお小遣いが懐に入ったので新しいカートリッジを買おうと思い、先にヘッドシェルとリード線を買うことにした。ヘッドシェルはオーディオテクニカのMG-10をヨドバシカメラが40%OFFで売っていたのを見て直ぐに買ってしまい、リード線はヤフオクで1000円以上だと300円引きのクーポンがあったのでついつい買ってしまった。リード線による音の違いは判りづらいのでそれほど気にしてはいないのだけど、keis911さんのオーグラインのリード線を買って長らく聞いていると僅かになごやかさを感じたので、今回もkeis911さんから買うことにした。以前からPCOCCの線に興味があったし、オーグラインよりは随分安いのでお買い得だと思う。


 そのリード線の内容は、オヤイデ電気製の PCOCC-A ケーブル ”HPCー22W ”を使用し、『シグナル線が PCOCC-A 0.08mm×60本撚りが2本、シールド側が同じく PCOCC-A 0.12mm×53本横巻という構成のシールドケーブルです。マルチブリッド(+/-の線材、線数などを別仕様にする)で仕上げてみました。

+側にシールドで使用されている 0.12mmを25本撚り、

ー側にシグナル線の 0.08mm×60本撚りの構成です。

”PCOCC-A” らしい情報量の多いスピードを持った音を出します。マルチブリッドで仕上げた効果か、解像度も上がり上下左右の広がり、奥行き感など良く表現してくれます。今回のリニューアルにより音像が前へ出てくれるようになりました。JAZZ、ROCKからクラシックまで何にでも向くリード線だと思います。』と記載されています。


 さて、GoldringのEthosを買うには不足金を貯めようとしていたのですが、Ethosで検索していると、ギリシャ語で精神を現わす名をこの新たなカートリッジに冠しました。と同じ文句なのに社名はOrtofon、しかもSPUで世界限定500個、それに価格がGoldringより安くて手元資金で買えてしまう。オーディオユニオンさんにメールで問い合わせたら、値引きまでしてくれると聞いて予約してしまった。そうなるとSPUにはカブトガニのようなカートリッジが付いているのだから、買ったヘッドシェルとリード線がもったいないので、MC30のカートリッジを付け替えることにした。ヘッドシェルを換装したカートリッジをトーンアームを付けてみると、ヘッドシェルがパコっと浮きが上がり、マグネシウム入りなので随分と軽いのを実感、カタログを見たらシェル自体の重さが9.3gだった。リード線によっては穴が小さくて硬かったり、大きくて緩々な場合があるけれど、keis911さんのは丁度良くて本当に助かります。


 音質の方ですが、付け替えた当初はなんら変わりがないように聴こえました。オーグラインの時は最初こもった音になったのですが、純銅だけあってスッキリしているのでしょう。リード線で音の違いを明確に感じたことはないのですが、何枚か聴いたうちの1枚で、うん?こんなに綺麗なメロディラインで明瞭だったかしらんと思うのに出くわした。MC30は情報量が多いものの低域はふっくらしていてボアっとするところだけど、やっぱり多少変わるようです。2013年に古川電工がPCOCCの製造中止してから、すでに7年が経っていますので貴重品になりそう。

リンカーンとさまよえる霊魂たちを読んでみた ジョン・ソンダーズ 著 上岡信雄 訳

 とても不思議な本である。物語らしきストーリーがないと言えばないし、容姿に関する描写は極めて少ないし、セクションの構成も不思議だし、そもそも現世であるかのような話だと思いながら、100ページを過ぎたころに三途の川を渡っていないんだと理解する。

 冒頭に梁が落ちてきたとは書いてあるけど、どのような世界観なのかわからなかった。そして、霊魂たちが話をつなぐけど別段に何かあるわけでもない。
そんな状態で100ページまで読めたのはひとえに文体が上手だからだと思う。
どのように設定されているか構成がわからないとやっかいな本になり面倒なのだけど、複雑ではなく単純な話だけど100ページまでいかないと判然としないのは拙者だけなのだろうか。


 霊魂たちが話しているのは日常の些細な風景が多くて、世の中を淡々と描写しているようにもあるし、孤独や暴力や非難や激情の描写もあるし、世の様々なことが霊魂たちが通り抜けるように過ぎ去るように思います。
いろいろな悲しみや想い残しがあり、現世をあらわしているようでもあります。

 随分と長いページを読むのですが、リンカーンが愛息を埋葬し、別れを告げる時間しか過ぎていないのです。読むにつれてわかりやすくなり、話も収束していくのですが、それにつれてリンカーンの悲しみの深さが徐々に覆ってきます。

 残りの30ページ程を読んでいるときにかかっていた音楽はショスタコーヴィチ のヴァイオリン協奏曲1番だった。
消えうる波が押し寄せてくるほどにヒラリーの弦のピッチは早く高い音を矢継ぎ早に正確に奏でて本のなかに染み込み文体が話しかけているようだ。

 どこまでも不思議な本だけど迷いなく名著であることは疑いようがなく、読み終えるとなぜかじんわりと霞むのです。


DACフィルターの疑問と超高周波によるα波

  DACにデジタルフィルターが付いているのだけど、この目的や使い方がよく分らない。サンプリング周波数の半分しか正確に再現できないことは、ナイキスト周波数と言われている標準化定理で証明されているので、サンプリング周波数が44.1kHzのCDが20kHz以上の音がカットされているのは理解できる。ところでハイレゾソースはどうなっているのだろう?通常から考えると96kHzなら48kHz以上、192kHzなら96kHz以上をカットして配信していると思うのです。ところでDSDの場合はどうなるのでしょうか、製作時にDSDのまま編集できないと思われるので、PCM変化していると思われるので、その時に半分にしていると思うのですが、そうなるとDACにカットフィルタがあって、選択になっているのは何故なのかと思ってしまう。DACの発振器の誤差への対応なのだろうか、最近のちょっと高額なDACなら高精度な発振器を使っているのだから、ジッター問題への対応でもないようにも思える。いろいろと検索してみたけれど解答の得られるページを見つけられない。ハイレゾを唄うメーカーはハイカットの理論的な内容を意見してくれれば、よりハイレゾが身近になると思う。Topping D90のPCMフィルターとDSDフィルターは下記の通りで、ハイレゾ再生のためにPCMはMode5、DSDはMode2を選択してある。設定を変えて聞き比べても拙者にはおよそ違いが分からない。


 そもそも、可聴域から外れる音域を無用との考えもあるのだけど、倍音、3倍音の効果を考えると一概に無用とも言えないと思える。超高周波の部分の人への影響についてはハイパーソニック・エフェクトなる言葉で検索すれば、いろいろと文献が出てくるので、なんらかの影響はあるようだ。でもそれが、いい音の要因だとは書いてないし、倍音効果との結びつきも書かれていないので、オーディオ的には判然としない。それでも、良いDACを買ってしまうとハイレゾを聴きたくなるし、それはそれで愉しい。

 でも、ちょっと変わった文献に出くわしてしまった。『超高周波成分の帯域の相違が自発脳波α1活性に及ぼす影響』のタイトルで第25回日本バーチャルリアリティ学会大会に出されたものだ。これを見ると第1の実験では、周波数帯域を0-16kHz、0-24kHz + 48kHz以上と48kHzまでの3種類に分けており、α2のみ可聴音(0-16kHz)より48kHzが大きくなっている。第2の実験では16kHz以上を8kHz間隔で12帯域に区切っており、16-24khzと24-32kHzではα1およびα2ともに可聴音(0-16kHz)より低下傾向になっている。と言うことはCDの超高音は脳にとって不活性になる。今までCDをさんざん聴いてきたけど、そんなこと感じなかったけど、それに0-30Hzも聴こえないよね。可聴音も区域を分けてグラフ化してくれると分布がわかってよかったのに残念です。可聴高音域のある帯域が含まれるとヒット曲になりやすいらしいけど、そことα波との関係についても考察してくれると面白いのに。


ピーター・バーンスタインのJazz Guitarを聴く

 What Comes Next

 ギブソンのフルアコギターを抱えて都会の街に立つアルバムの表紙からしてカッコイイです。フルアコの心地良い音で結構熱く弾いてくれるのが、これまた往年のジャズを思わせるところがあるけれど、それはエッセンスでバーンスタインの音楽だなぁと聴かせてくれる。バーボンをロックではなくハイボールで呑みたい気分になる。


 9曲のうち6曲はバーンスタインのオリジナル、1947年のポピュラーがジャズのスタンダードになったWe’ll Be Together Again、そしてガレスピーとロリンズの曲があり、メンバーのソロパートもいかしてる。

 サリバン・フォートナーの弾くピアノは鮮やかだし、ピーター・ワシントンのベースのうねりに身体は揺れるし、ジョン・ファンズワースのドラミングは熱き時代のジャズの香りが蘇るというわけで、新しい曲と旧い曲が違和感なくつながり現世のジャズが堪能できてうれしい。

TEAC カセットデッキZ-5000の走行モーターが回らない

  最後まで残っていた旧いRCAケーブルを交換する。カセットデッキではあまり音楽を聴かないので最後になったのだけど、一応PhillipsのCD LHH300の純正RCAケーブルに付け替えていた。これをモガミ2534へ交換した。BELDEN88760にしようかと思ったけど、ラックの奥行きがないのでRCAコネクタの根元が折れる状態になる。そこで柔らかいモガミ2534にしたのです。音色は高域が伸びて綺麗になり、メタルテープなんかを聴くとテープとは思えないほどの音になる。Zシリーズの中では末っ子ですが、録音機能は同じでテープごとにキャリブレーションをデジタルスケールで確認しながら最適化できる優れものです。上級機は駆動モータがキャプスタンと別々になりワウフラッターがより高精度になっています。カタログではリールモーターが記載されていますが、これは駆動用ではなく巻き戻しを兼ねたバックテンション用です。ちなみにZ-5000のワウフラッターは0.025%(WRMS)で上位機種は0.019%です。ちなみにナカミチZX-7が0.04%ですから優秀だと思います。この当時同様な価格帯にSONY TC-K777ESがあり、走行性能では777ESの方が優れていてキャリブレーション調整もできたので相当悩んだ覚えがあります。ノイズリダクションにdbxがZ-5000には付いていたのでこっちを買ったのですが、結局使わなかったです。それは、カーステレオでは再生できなかったからです。でも貧乏人の時代ですので、レコードが買えずレンタルで借りてはせっせとテープに録音したものです。当時のテープでコストパフォーマンスのよかったのはTDKのSAだと思います。





 さて、RCAケーブルを交換して音ならしをしていたら、なぜか走行側のリールが駆動せず止まってしまいます。過去に2回の修理をしていて、1回目は液晶パネルと駆動部のゴム交換、2回目は駆動のゴム交換のみで2年ほど前に修理してもらったのですから、どうしたものかと思いつつ、これがないとテープは全て遺物になってしまう。暑さのせいかとも思いながら翌日の休みに開けて見ることにした。




 翌朝にラックから取り出し、電源を入れ直して試運転するとちゃんと走行したので、一安心だけど折角なので蓋を開けて見た。基板の大きさと実装部品の多さに驚き、ハーネスが所狭しと回っていて駆動部分を覆っている。試しに走行させてみるとメカ制御用のモーターがカシャカシャと動き、キャプスタンモーターの動きも見える。メカ制御用のモーターとメカの歯車には2㎜角のゴムで繋いでいて、なんともひ弱そうに見える。しかも、巻戻し兼テンションモーターの軸を跨いでいる。これを交換しようと思ったら、機構の一部をばらさないといけない。交換部品があるのに面倒な構成になっている。輪ゴムで補強しようかと思ったけど更にばらすのは面倒なので糸で繋いだけど見事に失敗。メカ制御のために回転が速くて駆動時のトルクで糸が緩んで外れてしまう。ターンテーブルみたいにゆっくりと同じ回転を続ける場合はいいようだけど、クイックに短く反転もするようだとゴムように伸びないと無理なようです。仕方なくラバープロテクトのスプレーを少しだけ塗って長持ちしてくれることを期待することにした。





 残念ながら一ヶ月と持ちこたえられませんでした。なので、とりあえずamazonで色々なサイズの入った家電修理用のゴムを買いました。物が届いたのでカセットデッキのカバーを開けて動作確認をしたところ、ゴム部分のプーリーが動いてカムが回っています。なのに駆動モーターが動作しないようで、カムのレバーなど押したりしたのですが動作せず、早送りのボタンを連続押ししてムリに動作を繰り返してみたら、なんと動いてしまった。どこかの位置センサーが入らなかったようでゴムの劣化とは違うようです。これからも起きそうな感じで不安ですが、とりあえず小まめに動かそうと思います。結局、ゴムの封を切ることもなく終わってしまった。


ターンテーブル ビクターQL-Y7 修理


ミルト・ジャクソンの弾くビブラフォンでJAZZを聴く

 ミルト・ジャクソンはヴィブラフォンの名手でMJQを結成した。MJQ=モダンジャズカルテットの訳だけど、当初はミルト・ジャクソン・カルテットだった。さすがバップ時代からの大御所だけあって、共演している方々も大御所のかたばかりで愉快です。

 Opus De Jazz

 https://audio-fragrance.blogspot.com/2020/06/saiyuuki-go.htmlのリーダーアルバムで1957年の録音ですから、34歳の時で充実した演奏を堪能できる。フランク・ウエスがフルートを吹いていて、意外とJAZZにあうんですよね、そこへエディ・ゴメスのベースが唸るようにはいってきて面白い。ビル・エヴァンスの時よりも奔放で豪快なベースを弾いていて、伴奏者としての活動が多いのだけど、隠れた主役になっている。



 落ち着いた雰囲気もあれば、ミッドテンポで明るくメロディアスな曲など、あらゆるビブラフォンの奏でる音を堪能できる。どこをとってもミルト・ジャクソンなんだとわかる雰囲気を醸し出ている。


Bags Meets Wes!

 これは凄い!ミルト・ジャクソンとウェス・モンゴメリーの共演アルバムになっていて、とても素晴らしい演奏で名盤だと思う。こんなにビブラフォンの明るさとちょっとどこか日の影るギターが織りなすメロディが溶け込むなんて思ってもしなかった。1961年の録音、ミルト・ジャクソン38歳、ウェス・モンゴメリー38歳と同じ年で脂ののりきった年代で、演奏も実に情緒あふれる陽ざしを帯びながら、そこはかとなく落ち着いて聴ける。そこに、ウィントン・ケリーのソロ・ピアノがすっと出てきて、切れの良い持ち味を奏でてくれる。そのバランスが絶妙なんです。それに、サム・ジョーンズのベースとフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムスがきっちりとベースラインを押さえてくれる。この3人がサポートしていると名盤になりやすいと思ってしまう。


 当然、ミルトのビブラフォンが楽しめて、モンゴメリーのオクターブ奏法も愉しめる。それにケリーのピアノが絡んで、三者三様の眺めが望めてなんの違和感もなく、夜更けにスコッチでもやりながら、時間が緩むのだと想う。


Miles Davis and the Modern Jazz Giants

 これとBags Grooveの2枚はクリスマスの日に録音されたマイルス・デイビスの同一セッションで、2枚とも優れたセッションだから両方聴くとより愉しいし、同じ曲の別テイクがあって、ジャズって瞬間なんだなぁとしみじみ思う。まぁ喧嘩セッションと言われて有名ですし、聴けば聴くたびに効いてしまう音でいつでも生きてるんです。

 モンクが弾くのをやめたテイクがA面の一曲目にあるところに、このLPの凄さが出ててると思う。モンクのソロが始まるとモンクらしい不協和音のような旋律を一音一音ゆったりと弾くのだけど、的確で早いドラムとベースのリズムセクションにあっている。だけど、ピアノの音が無くなるのにベースとドラムは変わりなく、ごく普通にリズムを刻む音がこれまたカッコイイ、ベースはパーシー・ヒース、ドラムはケニー・クラークのMJQの二人です。そして後方からトランペットのメロディが挿入されるとピアノを再び弾き始めるんです。


 でもやっぱり隠れた主役はミルト・ジャクソンのビブラフォンで、マイルスのソロと遜色がありません。すごいメンバーなのでどなたの演奏もカッコイイのですが、聴き終わるとどうしてもビブラフォンの音が残っちゃうんです。


Bags Groove

 クリスマス・セッションのもう1枚です。A面の1曲目の出だしを聴いた瞬間に、あっあの曲だと気づきました。有名な曲なのでどっかで聴いているのですが、このLPとは知らずに買っていることが笑えます。ミルト・ジャクソンのビブラフォンが冴えわたる名曲ですよね、ビブラフォンの響きが心地良く、こんなにジャジーなんだと思えるし、余韻の消え方が弦ともピアノとも違ってちょっとぬくもりが蕩けるようにスピーカーが鳴ってくれると嬉しいです。そして、同じ曲を別テイクで2曲続けてあり、これでA面が終ってしまうのですが、聴き飽きるということがありません。まぁ、BAGSはミルト・ジャクソンのニックネームらしいので、そのとおりミルト・ジャクソンのLPに思えます。

 Miles Davis and the Modern Jazz Giantsとあわせて凄いメンバーですよ、マイルス・デイビスにMJQの3人であるミルト・ジャクソン、パーシー・ヒース、ケニー・クラーク、それにピアノの大御所であるセロニアス・モンク、そしてソニー・ロリンズまでいる。是非聴いておきたい2枚です。

マイルス・デイビス

ケニー・バロン Without Deception:レビュー

ソニー・スティット


3Dプリンタで製作されたDL103のカートリッジ針カバーを買ってみた

  DL103という非常にスタンダードなカートリッジがあるのですが、針カバーがなくて保管時に困ってました。DENONの補用部品では取り扱っていなくて、針カバーを購入できなかったのですが、3Dプリンタで作られた針カバーが安価だったので買ってみたのです。世の中は便利になったもので、3D設計できれば、そのまま3Dプリンタがその形状を作ってしまうのです。でも固い樹脂や金属はできるのですが、柔らかい素材は苦手なんです。だから、今回の針カバーにはシリコンゴムが貼ってあって、カートリッジを挟み込んで外れないようにしてありました。



 送られてきたケースも3Dプリンタで製作されたようで、富士山に青海波のデザインが透かし彫りのようになっていて洒落てます。購入した針カバーは実直なつくりなのに、それを入れて送るケースの方は遊び心満載で思わずクスっと笑っちゃいました。さて、実際に取り付けてみると、いささか不細工です。角ばっているせいか、大きく見えてカートリッジの繊細さが消えちゃいました。まぁでも目的は果たしているので良しとします。2個で1パックだったので、もう一つをグレースのF8Dにつけてみることにした。こっちも針カバーがなかったので良かったのですが、当然寸法が違うので嵌りません。でも、わずかな差なんで、小さいヤスリを持ってきて削ったのです。ラッキーなことに綺麗に嵌り、思わずニッコリです。


カルロス・クライバーを聴く

  演奏家または作曲家の名を題名にすることが多いのだけど、珍しく指揮者に惹かれて音楽ソースを集めてしまった。有名な指揮者の音楽はどれを聴いても素晴らしく、指揮者の違いは気にならない。でも、カルロス・クライバーはちょっと違う。音のテンポがとか表現の仕方とか音楽構成のことではなく、アンサンブルの音そのものが精緻で特級品の粒たちで明滅する。弦のフレーズで余韻が残るようなときに高い音から徐々に低い音へ重なりながら4弦が響くように聴こえる。こんなことは経験したことがなかった。クライバーは練習が厳しくて長いことで有名だけどそれが現れているのだと思える。


魔弾の射手 ウェーバー作曲

 カルロス・クライバー最初の録音で音質も優れている。序曲がわりと長くて優雅でメロディアスな旋律が綺麗で心やすらかに聴ける。ヴォーカルは前に出て少し奥まったところに伴奏が響き、アガーテのソプラノは艶やかで響きがあり線も細くなくすがすがしく聴こえ、カスパールのバスは朗々と唄われ、伴奏と融和して実に雄大である。なのでほんわかしている内に1枚目が終ってしまう。



 続いて2枚目は第2幕の魔弾を造るシーンで暗くて重く不気味な雰囲気が漂ってきます。そして第3幕のクライマックスへ向けてスリリングな展開の音楽が気持ちよく聴けますし、アガーテの歌声もより緊張感が盛り上がっていいです。アガーテ役はグンドゥラ・ヤノヴィッツで魔笛ではパパゲーノを演じるなど数多くの録音があるのですが、カルロス・クライバーでの録音はこれだけなのがちょっと残念です。 セリフの多いとか曲のメロディがとか構成とかではなく、またこの音がこの音楽が聴きたくなってしまう。結局のところ魔弾を放ったのはカルロス・クライバーなのではないかと思う。


こうもり リヒャルト・シュトラウス作曲

 録音が良いと言われているのですが、LPレコードを聴く限りでは普通に思える。ハイレゾでリマスターしたものがよい音なのかもしれない。それでも若いルチア・ポップの声は綺麗だし張りがあるし、第2幕のアリアを聴くだけも愉しめる。オルトフォンのSPU GEとMCトランスSAT-6600の組合せで聴く唄声はすぅーっとしたキレがあるのに骨格があり艶があっていい。



 どの作曲家でも曲の中に他の曲で使われたテーマやフレーズが出てくるものでワルツを聴いているとシュトラウスだなぁと実感してしまう。話も面白おかしい茶番劇で、仮面葡萄会は滑らかに注がれる音楽にあわせ踊り歌い、ときにはスネアドラムが行進曲のようにはいる。オーケストラと歌声の兼ね合いが綺麗でコラトゥーラは実に子気味よく、すんなりと身体の中に溶け込んでしまう。劇はめでたしめでたしで終わり、良き時代のウインナワルツである。


シューベルト交響曲3番、未完成

 シューベルトの曲はどれを聴いても癒されて少しばかり朗らかになれる。なんとなく日常の優雅さと折り目正しさがあって身近な出来事で花が咲いたり、子供がおばあさんをちょっと手助けしたりと小さな仕合せがシューベルトから聴こえてくるようです。

 室内楽曲や歌曲と比べると交響曲は馴染みにくいように聴こえるのだけど、カルロス・クライバーの場合は音の粒が綺麗で心地よくのほほんとしてしまうのだけど、録音が今一つでコーダなど盛り上がって多くの楽器が鳴ると混濁して飽和してしまい分離して聴こえないので、クライバーの良さが際立たず残念です。



3番の明るくてメロディラインが優しくてシューベルトらしくオーケストラが鳴り、未完成は今までのシューベルトから趣を変えようとしているように聴こえるけど、落ち着いた響きは厳かにならず澄みわたる草原を想い起す綺麗な旋律に癒されます。リマスターしたハイレゾ音源が出て欲しい。


ベートーベン 交響曲第5番

 言わずと知れた『運命』です。出だしのドアを開く音から迫りくるような音に怯えてしまうので買おうとは思わない曲なのですが、カルロス・クライバーの名演と称される第7番とセットになっているものだから、PCM96kHz 24bitをダウンロードしました。でも、改めて聴いてみると怯えよりもハーモニーの綺麗さに浸ることができてうれいしい。カルロス・クライバーでなければ買わなかったでしょう。

 カルロス・クライバーにかかると弦の織りなすハーモニーは非常に素晴らしいと思えるし、オーケストラ全体がしなるように滑らかに力強いエネルギーを発してくる。こんな運命もあるんだなぁと聴かず嫌いを反省する。

 これはPCM96kHz 24bitだからリマスターしてあるのかなと思える。オケのみなぎる力がしっかりと伝わってくるし、演奏もさることながら音質の良さも上出来だと思える。こういう音を聴きだすとなんだか大きなスピーカーで聴きたくなってしまうのだが、天井を倍の高さにして奥行きを1.5倍にとも思ってしまう。それにしても家にいたまま高音質な音楽ソースが手に入り、すぐに聴ける時代が来るとは思わなかった。



ベートーベン 交響曲第7番

 ベートーベンで好きな交響曲は6番の田園で次の7番をほとんど聴いたことがなかった。でも世の中では人気のある曲のようでカルロス・クライバーは3回の録音があるようだ。これはウィーンフィルの録音で巷で名演と称されるバージョンです。カルロス・クライバーの出した録音ソースはどれを聴いても素晴らしいのでどれも名演のように思える。これで録音とマスタリングがよければ言うことなしなのですが、ブラームスの録音はこもるというか音が塊になる部分が僅かにあるし、こうもりのレコードは音が割れる部分があってほんの少しばかり残念、この7番はPCM96kHz 24bit版なのですが、録音自体に少しばかり曇るというかオケの音が固まるようなところがあり、リマスターせずに単にサンプリング周波数とビットレートを上げただけのように聴こえる。5番と合わせて配信されていて、5番はとても良い音なので録音自体の問題なのでしょうか。

 演奏は軽やかで第1楽章を聴くとベートーベンの重さが無く、若いころに作曲した7重奏曲を想起させられます。第4楽章などはアップテンポなリズムでメロディラインが流れてウキウキしてきて、カルロス・クライバーとウィーンフィルの粋な調べを堪能でき、美しいという気持ちになってとても心地良いです。


ブラームス 交響曲第4番

 こんなに雄大に響くブラームスは壮大で気持ち良いです。ウィーンフィルの優美さと大胆さが備わって美しい弦の響くブラームスとは違う面が出ていて面白いです。第3楽章のテーマの特徴あるメロディが印象に残る曲で、ブラームスは交響曲より協奏曲の方が印象に残るメロディが多いと感じます。その印象ある主題が輝くように指揮を振っているのがいいです。

 CDのダイナミックレンジを稼ぐために音圧を上げてあるようですが、壮大に響く部分で僅かに破れるし低音が塊る部分があるのですが、それを差し引いてもカルロス・クライバーの巨きさに引っ張られていきます。リマスターしてDSD128あたりで出してくれると、ダイナミックレンジと弦の優美さの両方が出てとても素晴らしくなるように思えます。 


ヴェルディ オテロ

 いきなり音が割れている。あまりにも録音がひどくて耳を疑ってしまった。しかも1976年にミラノスカラ座で録音しているのに、なぜかモノラル録音だということを聞いてビックリしてクレジットを確認したら、なんと海外のレーベルの名がない。

 どうも海賊録音らしい。客席の咳払いが生々しいことから客席から一つのマイクで録ったもののようだ。カルロスの音の積み重ねなど聞けるわけでもなく、音がこもってオーケストラには思えない。とてもガッガリです。
 どうも日本コロンビアが来日記念で企画したものらしいけど、これを当時5,700円で発売したのは残念に思う。ラフマニノフ自作自演の録音もひどいけど、歴史的記録としての価値があるが、これは出演者には気の毒としか思えない。


エラ・フィッツジェラルドを聴く

Songs in a Mellow Mood

 歴代の女性ジャズヴォーカルでもっとも人気のある方ではないでしょうか。このアルバムは1954年のリリースでレコード会社はDECCAで2枚目のリリースになると思われます。ルイ・アームストロングとのデュエットが2年後ですから、まだ売り出し中のころで声量が豊かな唄が心地良く、伴奏がピアノだけですから、唄の上手さもよく分かります。

 アルバムタイトル通りメロウな曲ばかりで、身も心も疲れた時に一杯やりながらレコードを聴いていると、知らず知らずのうちに豊かで優しい唄声に癒されて少しづつ疲れが取れてゆきます。ふっくらとした容姿のとおりに柔らかく弾力の富んだ唄声でなにもかもが包まれてしまうのです。そんなヴォーカルをSonus Faber のMINIMA FM2で聴けばただひたすら頷くだけです。

ヘッドフォンアンプキット製作:レビュー OPA2604に変更

  イヤフォンを久々に替えてみたら、なんか腰高な音に聴こえたのでフォノアンプを物色。Macのイヤフォンジャックから直接聴いているので、イヤフォンをJVCのウッド振動版のHA-FW01にグレードアップしたせいか、パワー不足なのかもしれない。低域がよくでることが特徴なのだが、古いのも安価ながら低域が出るタイプだったし、鳴らし易いタイプだったのだと思う。OPPOのフォノアンプが気に入ったにだけど中古でもそれなりに高い、しかもDACを買い直すと現状のアムレックがヘッドホンアンプとして使える。そう考えてアマゾンで売っている安価だけど評判の良いKK moon NE5532を買った。とにかく安い、驚くほど安いのだけど部品を変えて別途購入したら、オペアンプと部品代が本体と同じ価格だった。


 NE5532は2回路で1回路のJRC5534を使ったCDの音がつまらなかったので、OPA2604という旧いけど評判の良いオペアンプを買ってみた。回路を見ると音の通り道に抵抗と電解コンデンサがあるので、DALEのRNとニチコンのFGを購入、耐圧が50Vしかなかったので買ったけど、ちょっと大きくて少し困ったことになった。


 基板のランドが小さいので半田付けに苦労するかなと思ったけど、案外すんなりと問題なく導通できた。抵抗は1/4Wを購入したにも関わらず、付属品より大きいために立てて半田付け、コンデンサが大きくて蓋と側壁のカバーが嵌らず、底上げして組立した。ボリュームも余っていたALPSに変更した。

 NE5532を取り付けて試聴。ありがたいことに標準でICソケットが付いていて、キットで作る人の気持ちが分っている。聴いてビックリ、NE5532ってこんなに音がいいんだ。1回路と2回路で違うのか、メーカーがテキサス・インストルメンツだからなのか、いずれにしてもカチッとしていて張りもあり、これなら良く使われる意味も分かる。音は中庸になって良い感じになったのだけど、音の増幅度は少ない。ボリュームは全開のままMacの音量で調整している。ステレオミニプラグの接続ケーブルも自作、MOGAMI2944が余っているのでNEUTRIKのミニプラグを購入した。


  調子に乗って使っているとイヤフォンを抜き差しする時に接触不良になりやすく、ちょっとひねった時にジャックの半田がランドとともに1ヵ所外れてしまった。外れた個所がマイナスだったので、IN側のジャックのマイナスへ電線を半田付けすることにした。修理に当たってテストしていると、クロストークが多めではないかと思った。ケースから外して聴くと板の上でもノイズがでるので、どこかで電気が回るのかもしれない。配線してケースに入れたら左右の音の分離も良くなったので、とりあえず良しとする。

  ついでに、オペアンプをOPA2604に変更して聴いてみる。最近では旧くて入手しにくいオペアンプだけど未だに人気のあることが頷ける。艶がでてくるのでソプラノなんかを聴くと実に艶やかです。ただちょっと糊塗しすぎなのかなとも思えるのだけど、音楽が弾みだす様な感覚を得るので聴いていて実に楽しい。また、JVCのFW01との相性も良く、深みがますように聴こえる。


 作っっちゃってから見つけたのですが、共立エレショップの真空管キットのなかにハイブリッドヘッドホンアンプの基板が1,870円で売ってるんです。どうせ部品を買い直すのなら、こっちの方がお得でした。しかも12AU7の真空管も家にあったのです。でも組立説明書の注意書きにもあるように、DC12v電源で動作しているので、カソード電圧を得られず動作しない真空管もあるようです。その意味では本来の真空管の使い方では内でのどうなんだろうか?オペアンプだって両電源の方が良さそうに思えますが、単電源でセンターをずらして使っていて、これはアマゾンで買った基板も同様です。両電源のヘッドホンアンプを持っていないので聴き比べできませんが、価格から考えると十分なようにも思えます。



その常識は本当かこれだけは知っておきたい実用オーディオ学 岡野邦彦 著

  著者の岡野さんは東大の原子力工学を専攻されて、天文写真のデジタル技術において露出時間大幅に短縮する方法を開発した人だそうです。デジタル技術で露出ならば微積分の世界ですから、CDやハイレゾなどの理論解説は間違いなさそうです。実際に読んでみても非常に解りやすく理論的な説明でありがたいです。なにせ、オーディオは感性的な部分が多いのですが、感覚的な好みの部分と理論的な部分を的確に区別して話して頂けます。理論的に正しいことと好きか嫌いは別問題ですから、その通りだと思います。大きく4つのテーマに分かれていて、アース設置、CD・SACD&ハイレゾ、部屋の音響修正、ケーブルの接続となっている。


 アースについては疑問に思っていたことが氷解して助かった。トランジスタのアース端子を繋ぐ先がなかったのだけど、浮いていて大丈夫のようです。でも、レガシーなアンプは接続した方がよいようなのですが、とりあえずノイズが出ていないので良しとします。でも、フォノイコとMCトランスについてのアースの話がないのは残念でした。ハイレゾは可聴範囲外の高音域だけが特徴ではなく、音と音のつながりが細かくなり鮮明さが増すことにあると思っていましたが、その通りのことが解りやすく説明されてます。テレビでもデジタルが4Kになると画素数が上がり鮮明になるのと同じです。CDの44.1kHzだと音と音の隙間が割とあるので推測ロジックで補正しているようですが、滑らかにしようとすれば非常に高い計算速度が要求されるわけで高価なものになるわけです。デジタル技術が進めばCDの再生音もより良くなるのではと書かれていますが、16bitだとダイナミックレンジが96dbなので音圧の課題が解決されないように思えます。レコードとの差が出るのはダイナミックレンジの問題だと思うのですが、どうなんでしょう。最近の録音で96kHz 24bitのハイレゾを聴くと差は明らかだと思います。あとアップサンプリングですが、音と音の隙間をどう繋ぐかだと思いますから、推論エンジンとパワーのあるCPUが必要なように思われます。リアルタイムでは難しそうだったので、CDの音源をDSD256にコンバートしたソースを再生してみましたが、良くなったようには聞こえません。音のエッジが丸くなって反ってダイナミック差がなくなったように思えます。

 部屋の音響については聴く場所によって落ち込む周波数が違うようで、立ったり座ったり、前へ後ろへと動いてみるとかなり違うことを実感します。まぁ、スピーカーからの角度によっても変わるので、設置方法でも変わります。スピーカーを置く位置も限られるので、ソースによって微妙に位置を変えて聴くことにしています。McIntoshのC40の5バンドイコライザーが重宝していたのを思い出します。REWという周波数測定ソフトがあって、部屋のシミュレーションができる機能もあり、無料なので試してみるといいです。『REW 使い方』で検索すると詳しいサイトが出ます。それから最後のケーブル接続は、デジタル機器のインピーダンスには気を使うようにとの内容です。

 薄い本なのですぐに読めてためになるのですが、価格がそこそこするので図書館で借りるのがいいです。意外と図書館にあるもんですね。

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