MCトランス UTC A‐11を組んでみた

 MCカートリッジの昇圧にOrtofonT-30YAMAHA A2000のヘッドアンプを使っているのですが、T-30の方はMcIntosh C40のフォノイコライザーに接続しているのでA2000の方にも昇圧トランスを入れたいなと思い、あれやこれやとWebの評価を参考にしながら思案を重ね候補に上がったのは、ピアレス、UTC、TRIAD、Dukane、フェディリティリサーチあたりですが迷ってばかり、フェディリティリサーチのFRT-4はフォノ入力が3系統あって昇圧もPass、3Ω、10Ω、30Ω、100Ωと揃っていて便利そうだ。TRIADは高いし物が出てこないので諦め、ピアレスはミント色の4722が相いそうな気もするが、SLC-1の方が魅力的に観えるのだけど3Ωしか対応していない。UTCは種類が豊富にあって選ぶのに困るのだが記事がない。
 時間もあることだし、自分で工作して組んでみようと思ったら、そもそもトランスの仕組みを理解していない事に気づき勉強した。トランスのコイルの途中からタップを出すことで巻き数が変わり抵抗値や倍率が変わるのは理解できたけど、トランスに配線図の印字されていないものも多くあり注意しないといけない。とりあえずカタログを探してみると古いUTCとTRIADのカタログがあって見ているだけでも楽しい。catalog  【UTC】 【TRIAD】
 カタログには周波数応答も載っていて違いが良くわかるけど音質とは違うので難しいところだ。カタログによくC.Tという文字が出てきてセンタータップだと解釈しているのだが、A-11の表記に2-3C.T-4とあって、2-4で200Ωなのに3-4で50Ωとあり、ちっともセンターじゃないので悩んでしまった。でもやっぱりセンタータップの呼称だと思う。
 いろいろと考えた結果、UTC A-11で組むことにした。ヴィンテージな割には安い方だし少ないにしても流通はありそうで何とか手に入りそうだし、音質は中音が綺麗に張り出し明朗なのがUTCの特徴らしいからだ。それにA-11の周波数応答を見ると5KHzから20KHzの高音域が持ち上がっていて珍しい。HiFiオーディオになってからフラット領域の広い方が良いような風潮だったように思うのだけど、一聴の価値があるように思えた。少々気になるのは50Hz以下の落ち方だけどまぁ良しとしよう。周波数応答だけを見ているとLS-51なんかも聴いてみたいけど売られているところを見ないのが残念である。A-11をカタログで見るとULTRA COMPACT AUDIO UNITSとあり、サイズは高さ2インチ(約50㎜)、幅1.5インチ(約37㎜)と確かにちっちゃいようだ。そして物が出るまで気長に待とうと思ったら意外に早く手に入れることができて運が向いてる。買ってからインチネジだよなと思い入手先を思案してたら、ちゃんとネジが付属されてきて感謝です。
 さて仕様ですが、入力はPass、3Ω、40Ωに対応できるようにしてアルミケースの塗装はハンマートーンにしようと思う。まずは取付レイアウトの図面を画いて部品リストを作成。次に配線図を画くにあたりA-11の昇圧を考えるとカートリッジ3Ωで30倍、40Ωで10倍程度が必要なので、A-11の2次側が50KΩだと1次側タップ番号3-4で31倍、1-5で10倍なのだが、マイナス側の4番と5番も切り替えるのはスイッチの極数が増えて面倒だ。そうなると2-4の200Ωを使うことになり倍率が√50,000÷200=15.8倍と大きくなってしまう。この場合、2次側を7-8の25KΩで使えば11.2倍と丁度よくなるので複雑になるけど2次側のプラスを切り替えることにする。電気回路は疎いのでロータリースイッチの使い方も勉強して、なんとか4回路(極数)3接点を使えば良いことがわかった。あと困ったのはPassの時のマイナス側の接続方法だ。ハムの出方もマチマチな様で悩んだ結果、入力マイナス(メスコネクタ)→EARTH→トランスG(グランド)→トランス8番→出力マイナス(メスコネクタ)とした。


 部品リストが完成したので調達先を検討、意外とないのがロータリースイッチで4回路3接点のノンショートタイプ。結局、ショートなのかノンショートなのか不明なまま安さに釣られてアマゾンで買ったら2週間かけて中国から郵便で届いた。EARTH端子もローレット加工のおねじタイプを探すが適当な物がなく思案していたら、スピーカー端子が使えることに気づいた。これは安価で賢い案だと思う。それから道具も必要でテスターやらトランスの端子部分を開けるΦ30㎜の超鋼ホルソーも一緒にアマゾンで購入。ハモンドのアルミケースは【GarrettAudio】に種類が豊富でハンマートーンの物がありしかも低価格、ついでにRCAコネクタ、ウェスタンの22GA単線、銀入りはんだ、スイッチのつまみ、BELDENケーブルを調達。尚、22GA単線は現物を見たら細いので心配になりアマゾンで18GAの残り僅かを運よく購入。でも使ってみると布とゴムの被膜も新しそうでいかがわしいが本物を知らないのと安価だったので良しとする。そもそも18GA  なんてめったに出ないし、絹巻の20GAでも良いのだが、これまたレアで高い、今回買ったものでも納得してる。こうして振り返ってみると接点面積の少ないロータリースイッチが最も安価なのでアンバランスだと思うが、一応金メッキしてあるので良いだろうと希望的観測。

 中学校の時に使ったコンパスの針先を使ってハモンドのアルミケースにケガキを入れる。とっても綺麗なエメラルドグリーンの塗装にキズのような線が残るのは忍びないので、なるべく穴の開く交点近くだけにケガキを入れる。トランスの端子を逃がす穴とビス穴が近いのでポンチを打ってから小さなドリルで穴あけし、順に大きなドリルに変えて慎重に穴を開けた。ハモンドのアルミケースはダイカストの抜き勾配、厚み、大きさと重みが手に馴染んで実に良くできている。穴あけが終り仮組すると思ったよりロータリースイッチとRCAコネクタが近くて配線が混み入りそう。次は問題の半田付けであるが、RCAケーブルの作成時と同様に銀入りのはんだが助けてくれるだろう。EARTH端子のネジ部とアルミケースの接触部位の塗装をヤスリで剥がし、テスターで導通をチェック。配線図に従ってウェスタンの単線を切り揃えてから半田付けしている内にどれがどの部分か分らなくなり、みっともない結線になってしまった。EARTH側とコネクタのマイナス側のみを導通チェック、間違ってもトランス内の導通をチェックしてはいけない。直流を入れると励磁して高音が出なくなるそうだ。


 鳴らし運転、PassをセレクトOK 、3ΩをセレクトOK 、40Ωをセレクト。。。あれ、左側から音が出ない。配線は何回も見直したから間違いないはずだし、左側だけっていう事はどこかで接点不良があるってことだと思う。トランス内部で断線は考えられないけど、とりあえず左側の7番を8番に繋いでみるが音は出ない。ならばと7番に戻し、2番を3番に繋いでみるがやっぱり音が出ない。そんな馬鹿なと思いつつ2番タップをじっと見る。なんではんだを剥したのに綺麗なんだろう。ひょっとして半田付けがのってなかったではと思い、再度2番に戻して半田付けしたところ音が出ました。あー良かったと溜息が安ど感と共に全身を包んでゆく。レコードをかけ直して聴いてみると変わり映えしないなぁなんて思ってましたが、3枚目辺りからハキハキしてきた。ピックアップはデノンDL103だ、中音と高音は骨が太くなり端正で明朗、低音はタイトですがしっかりと響いてくる。特に中音はSPUGEみたいな感じになり、グンと前にでてくるから気持ちが良い、高音はヤマハのフォノイコライザーの特性にぴったしのようでMMポジションの伸びてゆくヤマハのピュアサウンドだ。少々腰高なのだが、単語の発音が膨らまず綺麗だし、ブラスの音がかぶる部分はダミらずに流れてゆくのが非常に良くジャンルを問わず気持ちよく聴ける。IPhoneに録って聴いてみると違いがさほど判らないけど、気持ちが良いので8枚ほど続けて聴いてしまった。途中ヘッドアンプと比べるためにPassにしたら、なぜかPassの時だけハムが出始めた。なぜかなと思いながらトランスとアンプ間のアースを外しみると消えた。T-30の時は逆でトランスとアンプ間のアースをつないだら消えたことを考えるとトランス内のアースとマイナス側の接続方法が違うのだろう。とても気に入った音で鳴ってくれて隠れた逸材を見つけた気分。


 翌日も10枚程度聴いて暮らし、翌々日に仕事から帰って更に聴いてみたら驚いた。音像の切れが増している、DL103ってこんなに良いピックアップだったんだと感心する有様で低音も出てきている。音像の粒が跳ねて踊ってる、夕立が降り落ちてきた時に雨粒が地面に当たって跳ねて飛ぶように粒が際立ってる。音のつらなりに身体がスイングしてる、ながくながく忘れていたのに。あははは、実に楽し。

MCトランスのパス回路にハムが出る