キャノンコネクタのケーブルを作ってみる

 オーディオでバランス接続と言えばキャノンコネクタでの接続になる。アース、コールド、ホットと3回線での接続で、シールケーブルのシールド被膜線とコールドが分離されるので、信号線にノイズがのることが無くなる。だから、ステージなど数十メートルもの距離を繋いでも良いわけである。家の中の数メートルでは効果を発揮することは稀と言われているが、接続する機器同士がバランス回路を持っていると音が違うらしい。残念なことに出力側でバランス回路を持っている機器はおろか、キャノンコネクタすらついていない古い機材しか持ち合わせていない。しいて言うならトーンアームはバランス回路になっているのにキャノンコネクタはついていない。では何故キャノンコネクタのケーブルを作ることになったかと言えば、プリメインアンプの入力をフルに使おうと思うとバランス入力しか空いていないからだ。アキュフェーズE-470はTAPE入力がセレクターには無くて、隠し扉を開けてボタンを押すタイプになっているのだが、切替を忘れて翌日に電源を入れて音楽を聴こうとすると音が出ない。結構焦るのである、なのでセレクターでTAPEの音も聴くためには入力を空ける必要があるのだ。それにCDの音色を変えたい思惑もあるので作ることにした。


 出力がアンバランスで入力がバランスになるので回路上の恩恵はない。フォノイコライザーとCDデッキからの2系統をバランス入力にすれば、全ての接続をセレクターで選択可能となる。機材はノイトリックのオスプラグNC3MXXとRCAオスコネクタのリアン(ノイトリックの安価ブランド)、ケーブルはベルデン88760を購入した。88760の音の凄さは既に体験済みなので期待しているが、製作にあたりケーブルが固くて半田付けするのに向きを変えづらいのが難点だ。半田は前回購入したWonder Solder Signatureの無鉛タイプを使う。Kester’44’の銀入りタイプが売切れのままなのがちょっと残念。
 製作時の注意点はピンの番数が規格によって違うことだ。1番ピンはアース、2番ピンがホットの場合はヨーロッパ規格、コールドの場合はアメリカ規格ということらしいが、アキュフェーズはアメリカ規格で1番:アース、2番:コールド、3番:ホットなので間違えないように気を付けることだ。もっとも2番と3番が逆になってもボタンで切替ができるようになっているので安心なのだ。RCAコネクタから半田付けする。ホット側に半田鏝を強く長く当てすぎると中心の棒を支えている樹脂が熱で変形するので注意するが、なぜか1本だけ偏心してしまいメスコネクタへ射すときに固い。いつものようにシールド線は外側にめくり、コネクタのカシメ部分で巻き付ける。こうすれば、コールド線の方がメスコネクタに近い分だけシールド側に信号が流れず良いだろうと気休めに思っている。次にキャノンコネクタを半田付けするのだが、ベルデンの88760は固く、輸送時に丸めてくるから癖が付いていて向きが合わせにくい。しかもメスコネクタがないので固定ができない。洗濯ばさみと重しを使って固定しながら作業したけど、不慣れでケーブルの癖による向きの悪さもあってピンを保持している樹脂ケースを少し溶かしてしまった。このために金属製のケースカバーをネジ込もうとしたら、ちっともネジが噛まない。ちょっとヤスリで溶けた部分を削ったら、すんなりと嵌った。先にキャノン側を半田付けした方が楽なようだ。

 テスターで通電チェックしてOKなので、まずはLHH300のCDデッキから接続してみる。BELDEN88760が固いのでラックに収まっているCDデッキはRCAコネクタからラック背面までの距離が短くケーブルが曲がらない。そこで、ホルソーを使ってラック背面のべニア板に穴を空け、真っすぐ後ろにケーブルを引き出せるようにした。アキュフェーズのCDバランスに嵌めるとカチッといい音がして、しっかりと接続できた。キャノンコネクタはこの感触がとっても良く気持ちいい。アンジェラ・ゲオルギューの椿姫をセットする。とてもデビューとは思えない彼女のソプラノが高らかに響き細やかにヴィブラートの襞が波打ち、伴奏もクッキリと浮かんでいる。フランク・ロバードのテノールなんか明らかに輝きがでているし、CDのカッタルさが影を潜め、潤いができて艶が張っているように聴こえる。次に、オールマンブラザース・バンドのフィルモアライブを聴く。のっけから、デュアン・オールマンのボトルネックギターのエフェクターがこんなに唸るなんて知らなかったし、バスドラムのハッとするようなタイトでガツンとくる響きにベースがより低く響いてきて、ライブのグルーヴ感が会場を包んでゆく。ライン・トランスでも買おうかと思ったけど、先にBELDEN88760を試してみて良かったなーとほっとする。