約束の塔(1)

 高い塔での朝は早い、日の出とともに小鳥のさえずりが起床を知らせてくれる。稜線から日が照り始め、その遠い先に水平線が広がっており、そしてさらに先に霞んではいるが陸地がぼんやりと映っている。今までにない朝の景色とともに溢れそうになる水を一杯飲み干して、モーニングコーヒを淹れる。暑い時でもホットでなければいけない。小さなフライパンに卵を割り、黒胡椒と岩塩をパラつかせ、焼けたトーストにメイプルシロップをかける。焼けた半熟の目玉焼きをフライパンから滑らせながらトーストに載せて黄味をつぶす。あと3日もすれば学生時代の友人が引っ越してくる。でも彼はズボラだから寄り道を起こさなければよいのだがなどと要らない世話を焼きながらシロップと黄味の混ざったトーストを齧る。

 自分の荷物を片付けながら仕事部屋を作っている昼のちょっと前に引っ越しの荷物だけがやってきた。友人の部屋はこの上の一室を共同で借りており、大きな荷物はベッドだけで後は段ボールが数箱あるだけだ。僕たちが生きてゆくには十分すぎる財産のようだ。
夏の暑い日差しが陰り出すころに呼び鈴が鳴った。ドアを開けると真っ黒に日焼けした大学時代の友人がにこやかに立って、
「よう!ちゃんと生きてるな。久しぶりだな。」って言いやがる。
「ああそうだ、お前こそ真っ黒で、子供のように元気溌剌じゃん。」と言いながらハイタッチ。随分といい所をみつけたなぁ、上出来上出来と友人は楽しそう。
「ああ、ここを見つけるのに結構調べたんだぜ、僕の苦労のおかげってもんよ。感謝しろよ、君。」と友人に言葉を返す。
「もう昼めしにでもしようっか。」と腹の減った顔をしている友人に言うと、
「おうそうだな、飯は君にまかすわ。」と言われて僕が造る羽目に陥る。なんだかいつものパターンになりかけていて芳しくない。すぐに作れそうなのはスパぐらいしかないので岩塩を入れて茹でる、ステンレスのボールの中にチーズの壁を作り新鮮な卵を入れる。ベーコンとニンニクをオリーブ油で炒めて卵の上に載せる。そして茹で上がったスパを手際よくトングで掴んでボールに入れ、湯気がほわほわと上がるのを見て、おもむろに混ぜ合わせる。チーズと卵の黄身が溶け込んで粉っぽさが無くなったら出来上がりだ。
 ところで職業のあてはあんのか?と友人に聞くと、これでも事業コンサルタントだぞーと思わぬ回答が返る。
「あんたにコンサルされたらつぶれんじゃねぇ?」とツッコミを入れると、
「ふぁふぁふぁ、これでも数件のお得意様があるんだぞ。」と偉そうに友人は言うのだ。まぁ昔から法螺があるけど、半分はあたってる。ついでにワインで乾杯!おいしいチリワインがるぞ。僕たちの再開と出発記念だ。ありがとうよ、君は本当にいい友人だと友人が柄にもないこと言うと結構照れる。いいワインだ、うまいじゃないか。

 TVで目立つようになった芸能人の話題になり、友人が言うにはマツコデラックスは戦略家だそうだ。人気が出始めるか落ち目の相手にしか毒舌を吐かないことでパッシングを免れ、それ以外は人の悪口で自分の話題を持ち上げて他人の話題で笑いを取っている。マツコ自身は何も損をすることもないし、批評だけで食べいるから大したものだ。見た目が不細工だから許されるのだろうけど、長続きする方が不思議だと分析する。そんな話をされても、僕はTVを見ないのでサッパリわからない。人気絶頂期に何も言わないのは何故かって聞いたら、マツコ自身がパッシングを受けないように計算されつくされているからで、そこが戦略的な所なんだよ。と友人が開設してくれた。なるほどな、でもテレビ局から擁護された記事がWebにあるよって言ったら、ちょっと力学的に考えてみれば分かることさ。マツコの冠番組でスポンサーが降りるって言われると困るでしょ。とコンサルタントらしい回答が返ってきて笑えた。
「なんか美味しく作ったカルボナーラがまずくなるよね、なにもあんな悪口しか言えないタレントの話で大事な昼食がまずくなるのはよそうよ。」と僕がだるそうに喋ると
「そうだな、再開してする話題でもないよな。でもさ、なんで緯度の高いここが赤道より暑いんだ?約束の地はここだったのかしらん。」と訝しがる友人がつぶやく。
そうそう、友人の君に言わなきゃいけないことがあった。
「僕の幼馴染もここに来るんだわ。」
「えっそれって数回一緒に飲んだやつか?」とまごついた声で友人が返す。
「そうだよ、僕とは腐れ縁だからいいけど、君とは危ないコンビになるかもな。」と言いながら、確かにノリだすと止めるのは僕の役割になりそうで怖い。