シティ・オブ・グラス ポール・オースター 著

 ポール・オースターのデビュー作で1985年に出版された本だ。このあとに続く『幽霊たち』『鍵のかかる部屋』がニューヨーク三部作として評価が高く、僕は『幽霊たち』に出てくるBlackやBlueなどと名前が皆colorなのが気に入っている。僕が読む本の中では新しい時代の部類に入る。時代が過ぎても残っている本は時空が選別してくれているので、大きく外れることがない。原文を読むことは無理だけ翻訳もうまくて文体が簡素で柔らかくて読み易くて文体の表情が馴染んでくる。

 話は間違い電話から始まり探偵のようなことをするのだけれど、自分の存在が行方不明になり時間のなかで溺れる。ストーリーの中に日常的な出来事が物理的に書かれて一つ一つは論理的なのに、何故かストーリーは非現実的に展開されるのだがそれを気にせずに曳きずり込まれるところに文体の柔らかさが潜んでいる。ボブシーガーのアメリカン・ロックサウンドを聴きながら形而上学的な面をのぞかせる本を読ませる面白さがある。自分を他人が知っているから自分が在るのだと同じことをソクラノティップスという曲でRADWINPSが謳ってる。詩を描いた野田洋次郎は哲学者だと思う、でなければあんなボーカルはできないと思う。

 話の途中でドンキホーテの作風について語っている、そしてまたこの物語も同様な謎を残して終わるところが洒落ている。よく映画の中で他の映画をパロっているシーンがあるけど、それよりも洒脱に作ってあって楽しく、深い話と混濁しているところが生きてる。