夭折したSF作家の煌き:虐殺器官

 34歳で夭折した煌きのSF作家・伊藤計劃のデビュー作品をアニメ映画化。もう本当に惜しい人が早く亡くなり悲しむばかりだ。しかし、伊藤計劃の作品3本をアニメ映画にしたフジテレビ・ノイタミナムービーには絶大なる拍手を贈りたい。ちなみに『ノイタミナ(noitaminA)』はアニメーションを逆読みしたタイトルになっている。数々の素晴らしいアニメを世に送るプロジェクトだ。残りの2本は、『ハーモニー』『屍者の帝国』とどれも優れた作品で構成の大胆だと緻密さが融合していて楽しいばかりだ。
 虐殺器官なんて謎めいていながら未来に起こりそうな気にさせるタイトルだ。なぜ虐殺器官なのかはアニメを見る人のためにとっておこう。話はサラエボで核を使ったテロが始まりだ。サラエボから始まるところが歴史は繰り返すという暗示なのだろう。アメリカ特殊部隊に初ゾックするクラヴィス・シェパードが主人公だけど相棒のウィリアムズを含め人物描写に優れた作品で、登場人物一人一人が物事を捉える視点の違いで世の中の複雑さが浮かび、過去の生い立ちの影響を受けながら現生感を語るところなど手抜きがなく、各々のセリフの中にテーゼがある。

 民族対立により内紛が激しくなる国を舞台に展開される。特殊部隊の装置などはよく文章から映像にできたものだと思うほど感心するデザインであり機能だ。こういう物を見るとアニメではなく本当に開発されそうで恐くなる。細かい描写も丹念に描かれていて休む暇もなくエンディングまで連れ去られてしまい、エンディングの予想は立てられない。特殊部隊のケアのために薬で感情がコントロールされていて、どこまでもマシン化されてゆくからこそ人とのふれ合いが強く描き出されている。話は論理的に展開するテンポが早いので情景とストーリーの背景をよく見ていたい。SFアニメでこれだけの構成力があるのは珍しい。サイコパスも優れているけどアメリカ映画に元ネタがあるし、サイコパスは映画よりTVシリーズの1作目が面白い。虐殺器官は人を問う話であり、その終わり方もまた未来なのだろう。