メロディ・ガルドー:レビュー

 マイ・ワン・アンド・オンリー・スリル

 ゆったりとして気だるいような唄い方はスローバラードが良く似合う。アコースティックなベースのうねりが彼女の歌声にからんで離してくれない。聴いた瞬間に虜にされるという雰囲気が醸し出される。

 どこまでもスムースでムーディーなジャズに少し枯れた声がゆったりと渚のようにおしてはひいてゆく時間が流れ、どこか擦り切れそうな神経のラインが生暖かい樹液に包まれるうちに穏やかに治るような、なんとなく重みがなくなり浮くような感じになってエンディングする。

 ノラ・ジョーンズのカム・ウィズ・ミーも売れるわけだと思ったけど、これもまた同様な思いになった。


サンセット・イン・ブルー

 5年ぶりの新作でスティングとデュエットした曲も入ってます。このアルバムには18曲のデラックスバージョンがありますが、13曲の通常盤を96kHz 24bitのデジタルソースを買いました。

 CDになってから1枚の曲数が増えてしまい、長いのだと60分を超えるのですが、飽き性な僕には長いバージョンはつらいです。できればデジタルソースで45分ほどに短くして価格を下げてくれるとありがたいです。

 アルバムの曲調はゆったりした曲が多く、彼女の気だるく物憂げな声色がデビュー時のアルバムを彷彿とさせます。でも声のトーンがすこし乾いてしまったように思え、ちょいっと粘ってからみとられるような部分が薄くなったのがちょっと残念です。

 話題のスティングとのヂュエットは良いのですが、こちらもスティングの声色がなんか柔らかくなってしまい、ちょっと冷たく突き刺す様な部分がなくなり、年齢を感じさせます。

 落ち着きのある唄声に、ベースの奥深く低いうなりがエマルジョンのように混濁して帳の落ちるころに気をやすめることが気持ちいいです。でもデビューアルバムの方がインパクトが強いですね。

ハドリアヌス帝の回想を読んでみた マルグリッド・ユルスナール 著 多田智満子 訳

  ローマ皇帝の中で五賢帝と言われたひとりで、ハドリアヌス帝の生涯を回顧録形式で綴っている。歴史書にちなんだ書き方をしているからだと思いますが、ドラマチックな文脈になる部分は少なく、坦々としています。

 かといって、ハドリアヌス帝の多様性や公平性、軍事展開に関する考え方についてはパクスロマーナを展開したといえ、随分と近代的なように思えますので、やはり史実としてだけではなく小説なのでしょうが、形容詞と修飾語ばかりの文体で政治や軍事などの考え方の詳細もなく、ひたすら想い出です。


 五賢帝の時代は世襲ではなかったことが賢帝を輩出した一因だという俗説を聞いていましたが、これを読む限りそうでもないようです。前帝のトラヤヌス帝には子供がおらず、親戚であったハドリアヌス帝を養子にしているし、ハドリアヌス帝も美少年を愛していて子息がおらず、やはり親戚のルキウスを選ぶのだけど病死してしまい、評価の高い執政官であったアントニヌスを選ぶのだけど、ちゃっかりその次の皇帝候補としてアントニヌスに親戚のマルクスを養子にとらせている。

 まぁ、そうは言うものの近くでずっと見ていたものの中から賢い人を選んでいる。幼いころから見ていれば性格もよくわかるのだろう。単に履歴を見て面談してみるだけで人がわかるのならば苦労しないのは現代でも同じだと思う。

 この本が著者の代表作のように書かれる批評を散見するけれど、そうなんだろうかと『黒の過程』を読むとそう思う。