ローマ皇帝の中で五賢帝と言われたひとりで、ハドリアヌス帝の生涯を回顧録形式で綴っている。歴史書にちなんだ書き方をしているからだと思いますが、ドラマチックな文脈になる部分は少なく、坦々としています。
かといって、ハドリアヌス帝の多様性や公平性、軍事展開に関する考え方についてはパクスロマーナを展開したといえ、随分と近代的なように思えますので、やはり史実としてだけではなく小説なのでしょうが、形容詞と修飾語ばかりの文体で政治や軍事などの考え方の詳細もなく、ひたすら想い出です。
五賢帝の時代は世襲ではなかったことが賢帝を輩出した一因だという俗説を聞いていましたが、これを読む限りそうでもないようです。前帝のトラヤヌス帝には子供がおらず、親戚であったハドリアヌス帝を養子にしているし、ハドリアヌス帝も美少年を愛していて子息がおらず、やはり親戚のルキウスを選ぶのだけど病死してしまい、評価の高い執政官であったアントニヌスを選ぶのだけど、ちゃっかりその次の皇帝候補としてアントニヌスに親戚のマルクスを養子にとらせている。
まぁ、そうは言うものの近くでずっと見ていたものの中から賢い人を選んでいる。幼いころから見ていれば性格もよくわかるのだろう。単に履歴を見て面談してみるだけで人がわかるのならば苦労しないのは現代でも同じだと思う。
この本が著者の代表作のように書かれる批評を散見するけれど、そうなんだろうかと『黒の過程』を読むとそう思う。