終わりの感覚を読んでみた ジュリアン・バーンズ 著 土屋正雄 訳

  還暦を過ぎた主人公のトニーのなんだか気だるい感覚は同じ年代になった僕にはシンクロするようにわかる。そんな時に青春時代を想い起す手紙がやってくる。誰しもが青春時代を共にした友人に関することであれば、記憶に刻まれたフィルムを巻き戻すのは容易なことだろうし、今の自分との違いが齢の過ぎた年月を彷彿とさせる。


 青春時代の若い気持ちと還暦を過ぎた落ち着いた雰囲気の描写が対照的で実に旨い。そして手紙が来てからなんだか青年時代にもどったかのような、それでいてやはり還暦であるかのような混ざり合いも見事である。

 それにしても離婚した奥さんに手紙の件で相談しているけど、僕だとありえそうになく離婚していなくてもそんなことはしない。離婚してたまに会って穏やかならばその方が羨ましい限りです。

 そんなありえそうにないけどあり得る情景のレベルが上がった結末もまた巧妙であるけれど、なんだか題名にはそぐわないように思える。