ソニー・スティットを聴く : レヴュー

 Boss Tenors   Gene Ammonz & Sonny Stitt

ソニー・スティットはジャズのサックス奏者。アルバムFor Musicians Onlyでディジー・ガレスビーとスタン・ゲッツと共演し、アルトサックスがカッコイイのでクレジットを見たら彼だった。


 ジーン・アモンズもサックス奏者で二人の掛け合いが実に心地良い。ソニーはテナーもアルトも吹いていて情感のあるジーンと情熱あるソニーの音の違いがソロの繰り返しで雰囲気を盛り上げてくれる。なかなか息の合ったコンビでこちらもグットのってくる。

 有名な枯葉を二人で吹いていて、二人の味の良さを存分に引き出しくるので、一粒で二度おいしい。


Meets Sadik Hakim

 ジャズピアニストのサディク・ハキムとの共演で1978年のアルバムですから、ソニー・スティットが54歳の時で亡くなる4年前の録音になります。


 緩やかに始まる1曲目がなんとも年齢を重ねた渋い演奏が染込んできて、晩年のスティットの味わいが堪能できる。録音の年代からするとフュージョンの時代に入ってますが、往年の二人がスタンダードナンバーを艶やかに演じる様は落ち着きの中に轟きを含んでいて心地良い。

 DSD64での復刻デジタルですが、レーベルが2xHDなのでいい仕事をしていて、彼らの演奏が蘇っています。


Kaleidoscope

 1957年にリリースされたアルバムだけど、録音は1950~1952のニューヨークですから初期の演奏になります。


 若さ溢れるサックスの音がどこまでも響く力強さに引き込まれてゆきます。ビバップの生気溢れる時代にエネルギーが迸ってるのがレコードを通じても感じる。こういう音ってレコードで聴くといいんですよね。

 ソニー・スティットの音はなんだかどこかに艶がのるように思えます。アダレイの方が奔放な吹き方で味がでるのですが、スティットの艶ってのはなんだか女の色気みたいなことを感じるのは何故なんだろう。


Sonny Stitt sits in with The Oscar Peterson Trio

 オスカー・ピーターソン・トリオをサイドメンにスティットが気持ちよく吹いている1959年のアルバムです。




 A面はアルトサックスで、曲はチャーリー・パーカーが吹いていたから取り上げたようです。パーカーにあこがれて吹き方も真似ていたのがスティットを形作ったのでしょうか、実に楽しそうな音色です。
 B面はテナーに持ち替えて、レイ・ブラウンのベースと響きと相まって味があり、録音も素晴らしく良いレコードです。
 オスカー・ピーターソンはリーダー作もいいのだけれど、サイドメンになるとメインの人がより際立つところが凄いと思う。ピアノ伴奏だけでエラ・フィッツジェラルドが心地よく唄ってるのを思い出した。





終わりの感覚を読んでみた ジュリアン・バーンズ 著 土屋正雄 訳

  還暦を過ぎた主人公のトニーのなんだか気だるい感覚は同じ年代になった僕にはシンクロするようにわかる。そんな時に青春時代を想い起す手紙がやってくる。誰しもが青春時代を共にした友人に関することであれば、記憶に刻まれたフィルムを巻き戻すのは容易なことだろうし、今の自分との違いが齢の過ぎた年月を彷彿とさせる。


 青春時代の若い気持ちと還暦を過ぎた落ち着いた雰囲気の描写が対照的で実に旨い。そして手紙が来てからなんだか青年時代にもどったかのような、それでいてやはり還暦であるかのような混ざり合いも見事である。

 それにしても離婚した奥さんに手紙の件で相談しているけど、僕だとありえそうになく離婚していなくてもそんなことはしない。離婚してたまに会って穏やかならばその方が羨ましい限りです。

 そんなありえそうにないけどあり得る情景のレベルが上がった結末もまた巧妙であるけれど、なんだか題名にはそぐわないように思える。

ビンカー・ゴールディングのサックスを聴く:レビュー

 2021年になる今日、ジャズもクラシックもロックも融けかけていて渾然としているように思える中で、新しいジャズはロンドンから巻き起こっているようだ。ヌバイア・ガルシアのようにアフロビートにのったサウンドが多い中でビンカー・ゴールディングのサックスはビバップな古き良き時代のジャズ音がところどころに散見されながらサックスを吹きまくる。


 アブストラクション・オブ・リアリティ・パスト・アンド・インクレディブル・フェザーズとやたらにアルバムタイトルは長いけど、久しぶりにこれだけ気持ちよく吹き抜けるサックスを聞いて嬉しい。ウィントン・マルサリスの若い時を想いだし、インプロビゼーションのジャズを想起させながら、うねるビートとリズムは新しい時代の芽を感じる。

 うーん、エネルギッシュなジャズやロックを聴くとやっぱり血が湧くね。


転落・追放と王国を読んでみた  アルベール・カミュ 著 佐藤朔・窪田啓作 訳

 昔日な思いのある本を改めて読んでみました。カミュという作家は好きで人が生きる狭間の中でふと陥るアンニュイな空間とそこにある思考に知らず知らず引き寄せられる。でもペストだけはリアリティが強いと思います。


 転落はパリで有能な弁護士を務めたものがアムステルダムへ移り住み、行きつけのバーで出会った同胞(弁護士)に人生を語る話。相手はあるけれど何も話さず、ひたすら主人公に読者が問われる形態になっている。原題はLa chute、転落、低下、没落、堕落の意味のようだけど、グーグル翻訳は秋とでる。橋ですれ違った女性が川へ落ちる話や弁護士で活躍した名声から抜け落ちた境遇から転落なのだろうけど、話の内容を罪悪のように思え堕罪の感が強いので堕落でも良いように思える。

 追放と王国は6篇の短編集です。砂漠の国なのに冬で気温が低いのがアンニュイな夫婦ながら想う気持ちをそこはかなく描かれた『不貞』から始り、霊魂を呼び戻す踊りの中に酩酊しコックは大きな石を運ぶ『生い出ずる石』で終わる。どの作品も濃縮された苦味があり、新しく移り変わってゆく中に生があるようです。

 若いころは憤怒と正義がごちゃまぜになったように押し寄せてきて、しっかりと立つ地が確かなのか疑心暗鬼に駆られていた。そして還暦を過ぎて読むとその通りであり、だからといってこれだという画一的なことはなく、畳の眼ほどに漸次静かに歩むと思える。