アフリカの日々を読んでみた  アイザック・ディネーセン 著  横山良子 訳

  ひとが生きるというのはこういうことなのだろう。ここにはコミュニティがあり、為すべきこととは有り様をそのまま受け入れ踏み越えてゆく泰然自若とした大地にある者なのだろう。


 1885年生まれのデンマークの作家、ペンネームは男のようですが女性です。ナイロビから近い丘陵地の農園での営みを描いた本ですが、ほぼノンフィクションなのだと思います。あまりにもリアリティがあり、そこに住まう人々や家主の姿が眼前に浮かび、アフリカの種族の風俗までもが匂うのです。
 上村松園の絵の美しさに見惚れているとガラスケースの中にスケッチがありました。その日常の人や動物の何気ない仕草と風景があまりにも現実的で躍動している様を観て驚きました。この本もまさにその通りです。ここに出てくる人たちはどこまでも、ひとなのです。それも悪人ではなく共同体のひとです。
 文化と文明とは何を示すのか、否応なくせまる政治とは何を示すのか、アフリカの生がむき出しになって、それは書かれている表現力がすさまじいのだと思う。なかなか剥き出しの生に向き合うことはないほど、まれな本です。