2020年江戸川乱歩賞を受賞した物語『わたしが消える』、推理小説と言うよりはミステリーなのかもしれないけど、アラン・ポーの匂いがした。
古い時代を遡り現代に息を吹き替える構成の中に、痴呆老人となりかけの初老の二人が組織のなかの狭間に葛藤する人生が重なる。それでも生き埋めにされたものと弾き出された者の境遇には差があり、その差が初老の中で変化をもたらしてラスシーンに繋がる、とてもよいつくりだと思う。
展開とテンポが釣り合っていて読みやすいのだけど、娘さんとのやりとりには何かしらたらずじまいがあって、何十年も会っていなかったニュアンスが読み取れなかった。論理的な構成や展開の妙にあと風情が醸し出されてくると遅咲きの男に迫るのだろう。
最終章では結局胴元が強いのだと笑えた。ぽろぽろとこぼれ落ちる記憶の中で最後に残る記憶とはなんだろうか?自分が誰だったかも忘れる時、最後ということも忘れるのだろう。いずれにしても儚いのだからこそ、ともに生きたことだけがあたたかいのだろう。