霊山を読んでみた  高行健 著  飯塚容 訳

  1940年中国生まれ、フランスに亡命したフランス国籍の作家。ちょうど亡命したころに発表したのが、この『霊山』という小説で霊山へ向かって旅をするのだけど彷徨っているのは自我なのだろうか、それともそれ自身が霊山なのであろうか…


 人名はでこない、わたし、おまえが主人公で81章を変わる変わるに話す。おまえと私が同一人物のように思われるが、そうだとも言い難い。中間あたりで話す順序が逆転するのは私があっておまえがいることを示すのかもしれないが定かではない。終わり頃に一度だけ私とおまえが同じ章に登場するけれど、たったの一文だけであるし各章のつながりは薄く時系列な流れも薄い。

 おまえの話は女の話が多く、私の話は山の生活や僧侶の話が多い、いずれにしても暗澹とした話であり、だから霊山なのだろう。読んでいて楽しいことは無く、自我について触れる箇所は一部ではあるけれど、それが全てのモチーフなのではないだろうか。フィソロフィーや政治的主義などはすでにあって無いように思える時代から見ると、空虚さだけが残りそれも自明の理だと私かおまえも言っている。

 霊山とは、この本自体なのだろう。