ぺるけ式真空管フォノイコライザーを作ってみる

  真空管のフォノイコライザーはマランツ#7回路とマッキントッシュC-22回路を模したものがあるのですが、なんとなくもう1台欲しいなぁと思い自作することにしました。

 そうは言っても回路設計できるわけだは無いので、キットなどを調べていたところ、ぺるけ式の記事を見つけ音の素性も良さそうです。しかし、1台増えると置場がありません。しかたないので、YAMAHAのサラウンド機器を改造して組み込んだLT1115のトランジスタフォノイコライザーと合体すれば収まることを思いつきました。そこで大きさを計って筐体の設計です。


目次
    3)制作の続き
    4)音質について

【製作1】
 ぺるけ式のトランスは東栄変成器のバージョンですので、高さが指定の筐体では入りません。合体分もありますし、トランスの漏洩磁束対策も兼ねて、150*200*80 + 100*150*80 + 150*200*80のアルミケース(LEAD社)を組合せると結構安価に作れます。小さい箱を真ん中にして真空管を後面に付けるのですが、自分の技量がわかっていないために苦労することになります。

 部品の調達にあたってはリプルフィルタとして使う2SC3425が廃止品ですので代替としてTTC008 600V 1.5Aを使いましたが、現物が届いてあまりにもちっちゃいので驚き、ラグ板に取り付けるのに苦労しました。最近のは実装部品になってきているので小さくて困ります。



 音の通り道にあるコンデンサーは、WestCapのオイルコンデンサ、ASCのフィルムコンデンサ、RIAA素子の部分はシルバーマイカとSOZOのポリエステルフィルムです。OUTの0.47uFカップリングコンデンサがASCなので、これが音の影響としては大きくなるのかなと思います。ASCはTRWブランドのコンデンサ事業を引き継ぎ、滑らかな音質だと評価されています。他の機器にも使用しているのですが、この部分のみ取り替えて聞き比べたことがないので実際にどのくらいの差なのかはよくわかりません。聴感としては癖がなくスムーズに思われます。こういう部品を使うとぺるけ式ではないようにも思いますが、趣味の世界ですから。ただ、古いコンデンサは大きいので、取り付けるスペースには苦労します。

 

筐体の製作で苦労するのは角穴です。角穴パンチはないので丸穴を小刻みに開けた後、ニッパで切ってヤスリで仕上げます。それが嫌でできる限り丸穴の部品を選ぶのですが、今回はめがねコンセントがあるためにせっせとヤスリで仕上げです。

 トランスを組込む筐体にはラグ板が2セット同居して、電源部なのでいいのかもしれませんが、気休めでもと思いアルミ板で仕切りを設けました。なんとなく弁当箱を想いだして一人笑いです。

 問題は100*150*80の箱です。真空管を後面に突き出すのですが、幅が狭く高さの80mmが意外に手が入り難い、はんだ付けはあまり上手ではないのに狭苦しいのはいけません。そこへLRのアンプ部のラグ板を入れてみたら、オイルコンデンサなどが大きくて過密状態のため、配線がくしゃくしゃです。モガミの2549が安売りされていたので買ってしまい、シールド線の太いのがINとOUTに使ったので余計にジャングルです。アルミの箱の中だし、トランスはいないし、シールド線でなくてもいいし、同じシールド線でも2944で十分だと思います。



 通電チェックを行い、とりあえず問題なさそうなので電源を投入して電圧チェックです。ヒーター電圧は無負荷(真空管なし)の場合に16.5V出ていますが、増幅管12AX7を挿そうとすると意外なことが起きた。エレハモの真空管を買ったのですが、なーんと入りません。シールドケースのベースより管の方が太いんです。こりゃやられたと思い、東芝のHiFi管に入れ替えて電圧を再測定したところ12.8Vになりました。その時の家庭電圧は102Vですので、ぺるけさんの設計通りです。1本あたり1.2Vほど電圧降下するとわかり、ヒーター部分の抵抗を計ると16~18Ωでした。こういうところは実際に組んで実測すると勉強になります。

【トラブル1】
 音がでるか試しに鳴らしてみました。なんと一発で音がでて感激です。そこで、LT1115のフォノイコライザ基板を取り出し、組み込もうとして電源確認を行ったところ、LEDが点かず、焦げ臭い匂いがします。うーん、まいったなぁと思いながら電圧チェックするとヒータ電圧が47Vもあり、思わずスイッチを切りました。

 ヒューズはOKですが、ヒータ電源の3W 3.3Ωが焦げて変色してます。いろいろチェックすると破損したのはこの抵抗のみのようで助かりました。きっとヒーター電源の配線が短絡したので、バイアス電圧が流れたのだと思います。あーやっぱり、真空管のある狭苦しい中のジャングル配線が元凶です。

 狭苦しい中にプラ板を差し込んで絶縁対策をしましたが、一抹の不安ありです。それにLT1115の電源もとろうと思っていたのですが、バイアス電圧がかかってました。

【製作2】
 LT1115の電源部は家に9Vのスイッチング電源があるので、これを利用して±15Vの両電源を作るのにMINMAXのDCDCコンバーターを使いました。電源はリップルの問題もあり、取替があることも考えると入力4.5~18Vの方を選びました。これが後で功を奏します。


 このため、真空管用とオペアンプ用でスイッチが2個になり、違和感がありますが、自分専用なので良しとします。あと、音の入力と出力は4回路3接点のロータリースイッチを使って切替です。3個目のポジションは空なんで、ちょっと寂しいのですが、秋月電子のロータリースイッチは安価で操作感も良く優れものです。ツマミもついて来ますが、マーシャルタイプのツマミが気に入っているので交換しました。

 オペアンプの電源チェックを行い、音出しの試験です。もうビックリ、音はでているのですが、盛大なブーン音です。トランスがあるわけでもないので、ハム音なんか拾う訳がないのに唸ってます。ちょっとショックで暫し茫然。やっぱり入力側にインダクタとコンデンサを入れた方が良さそうです。

 MINMAXのリップル対策でOUTにコンデンサを入れてるのですが、3.3uFなので情けなく感じますが、これはメーカー参考図通りです。とりあえず、12VのACアダプターに入れ替えてみたら随分静かになりました。どちらも他の機器についてきたACアダプターですが、ノイズの出方に差があるんですね。MINMAXの入力電圧が4.5~9Vの方が安価なのですが、後に15V用の低リップルなACアダプターを買おうかと思っていたので18Vまでの方を買ってよかったです。

【音質】
 音質ですが、オペアンプの供給電圧が12Vから15Vになって変化があるかと思ったのですが、変わりないように聴こえます。LT1115らしい切込みの深い鮮明な輪郭のある音でHiFiに聴くにはいい音です。12Vの時はトランスから三端子レギュレータで降圧、15Vはスイッチングレギュレータの組合せなので足し引きゼロなのかもです。

 真空管フォノイコライザの方は、音の輪郭がマランツ#7回路のフォノイコに似ていてスムーズで端正なコントラストです。でも、少々ドンシャリ気味で音の分離も今ひとつなのですが、これはビンテージなコンデンサをごちゃごちゃと付けた初期はこんな感じです。エージングすれば収まってくると思います。



 試音はLRの接続確認も含めてビル・エヴァンスのWaltz for Debbyを聴くのですが、最初に出た音は左からピアノの音、右にベースとドラム。逆です、何を間違えたのかと見直すと出力に挿したRCAケーブルが逆でした。ピアノの高い音を聴くとLT1115は鮮明なのですが響きが少なく、ぺるけ式真空管は少し柔らかく余韻がわずかに長くて音の重なりが気持ちいいです。

 さて、エージングのために数時間いろいろと聴いた後、カートリッジをDL-103、トランスをUTCA-11につなぎ直して数枚聴くとほぐれてきました。中音も出てきてバランスもいいし、響きの良い音で張りと艶があり、少しウィットで僅かにねっとりした部分が残ります。驚いたのはDL-103ってこんなにヴァイオリンの表現が旨かったかしらんと首をかしげてます。

 ハイフェッツのヴァイオリンって一音一音がしっかりしていて表現力もあるのですが、ちょっと固いイメージが残ります。でも、それがわずかにほどけて融和するのに驚き、オーケストラの各楽器も分離がよく前後間の空間も描かれています。響きの良いフォノイコライザーなので倍音の重なりが良いのかも知れません、ベートーヴェンのロマンスがまさにロマンスです。

【トラブル2】
 LT1115のノイズ対策でACアダプタのリップル除去のために1mHのインダクタと2200uFの電解コンデンサを入れたのだけど変わらずブーンと言うノイズがのる。

 うーん、音がブーンってハムということなのかと思案していたところ、DCDCコンバーターってスイッチング方式だと言うことを思い出した。でも配線がシールド線なのにと思ったが、MINMAXのDCDCコンバーターの真上にイコライザ入出力切替のロータリースイッチがいるのだった。
 そこで、アルミの板を差し込んでみたらノイズが減衰した。やっぱりレイアウトって大事ですよね。もともとaitendoの単電源から両電源を作るK-555VRを使う予定だったのだけど、一定間隔でポップノイズがでたので変更したんです。でも、遮蔽板の最適位置を見つけてほぼノイズが無くなったので良かったです。
 ぺるけ式LT1115の使い分けができて中々いい塩梅です。

 ・RIAA部分のコンデンサ:
            シルバーマイカ 周波数特性が広帯域でフラット、
         Sozo ギターアンプに使われることが多いとのことですが、
             RIAA変換部なので精度の高い物の方が良さそうに思えます。
 ・カップリング部分のコンデンサ:
            WestCap(古いオイルコンデンサ)、ASC(フィルムコンデンサ)
            音の通り道にあるカップリングコンデンサが音色の変化には
            大きく影響していると思われ、響きよく艶がでているのは
            この二つの組合せだと思います。
 ・真空管:
            東芝Hi-Fi 12AX7
            3本とも東芝で古い真空管ですが、音色はスッキリして高音域が
    澄やかです。