親愛なるひとを失って彷徨う者の話なのだけど物語りと言えるのかはわからない。多くのミステリアスなことが起きるのだけど…
英文のタイトルは THE PASSENGER、直訳すれば旅客なのだけど、旅客なのは読者のような気がする本だと想う。作家の必要以上な形容詞は随分と控えめになり簡潔な文体になって良いのだけど、口の悪さはあいも変わらないようだ。
カットバックが多くて時間感覚がズレやすいのは天文学や物理学の話が多いせいかもしれない。数学の天才で数学を放棄して放浪生活をした人物を思い出した。才能豊かな主人公は何も生み出そうとはしない、実に勿体ない話である。
作家の話にはいつも神を信じるかの問いが発せられるのだけど、なにも進展はないのだからそろそろ乗り越えてみたらどうなのかと想う。どこか人生の哀愁を帯びた雰囲気がこの作品にもあるけれど、デカダンスな色彩が濃くなってきて何故かそれが数学や天文学に結びついている。そのせいで『恐るべき緑』という本が脳裏をよぎってしまう。
そしてミステリアスなふりかけはスティーブン・キングに似てきたような気がする。