LT1115 オペアンプEQ基板の作成

 フォノイコライザは真空管タイプが2台とオペアンプタイプはYAMAHA A2000が1台あり、A2000はphone入力が2個で一つにはMCヘッドアンプもついている。そこで、オペアンプを取り替えて違いの分かる機材が欲しくなり、LT1115+LT1010を使ったリニアテクノロジー掲載の回路図の基板を買ってしまった。
 基板だけなので部品は自分で調達するのだから、古い部品を買ってどんな音になるのか挑戦することにした。その前にちゃんと音が出るかが問題ではあるが、それもオーディオの楽しみとして時間を費やそうと思う。

 実際の基板を見てみると随分と小さい、しかも半田付けホールがえらく小さくて嫌な予感がする。使う部品の仕様によってブランドがバラバラになってしまった。ちょっと残念なのはKester44銀2%入りが売り切れでWonder Solder Signatureという鉛フリーの物になり、はんだ付けが上手じゃぁないから不安も残る。NFタイプで負帰還部分にシルバーマイカとオイルコンデンサを付けてみようという冒険で、どんな音になるのか楽しみだ。

 基板への部品取り付けは、背の低いものから付けるのが定石なことは分かっていたのに余りにも久しぶりだったものだから、ダイオードや8ピンICソケットを途中で忘れていることに気づいた。部品が落ちないように当て木をして苦労するし、はんだホールが小さいから案の定上手くはんだが乗りにくい。
 足を曲げて半田ごての先で加熱すればいいのだけど、ちっとも熱くならない。半田ごてに小さなボタンがあってこれを押すと先っぽでも加熱することに遅ればせながら気づいた。借り物なのでワット数などもわからず使うのは良くないと反省。
 しかも、古い部品なので足を曲げてねじったら捥げてしまった。足をねじってはダメだよね、基本も忘れている。そんな事より予備なんて買っていないから、ダメ元でフィルムコンデンサの被覆が取れた部分に足をはんだ付けしてみた。
 テスターで測ってみると導通があり、抵抗値も正常品と同じだ。ちゃんと音が出なかったら部品を再購入することにして完成まで漕ぎつけた。

 配線用の脱着ができるようにと思いピンヘッダに差し込むジャンパーピンの頭部に線材をはんだ付けしたのだけど実に難しい。部品が小さすぎて樹脂のカバーが溶けてしまう。工具を買ってコネクタを圧着した方が無難、ついついケチったものだから苦労ばかりする。
 線材は22AG単線のウェスタンエレクトリックが余っていたので流用したけど、長さが足りずMMとMCをロータリースイッチで切り替えるのは断念した。まぁ、MCトランスを使うので無くても支障はない。電源部分は古い機材を流用するのでDC12Vと推薦の18Vより落ちる。オペアンプの使用範囲としては問題がないけど、電圧の違いでも音が変わるのかと調べてみたけどよく解らない。
 とりあえず配線もできたのでオペアンプは入れずに電源を入れてみた。コンデンサが膨らんだり異常加熱している様子はないようで一安心。電源コンセントを抜いて、いよいよオペアンプをICソケットに差し込む。
 オペアンプの足を内側に曲げてソケットの幅に入るようにして入れてみた。入ったと思ったら片側が外れていることが良くあり、今回もそうなったので外したのだけど、やってはいけないのにちょっと無理して引っ張ったから傾いて抜けた。あーあーと思ったけど後の祭り、オペアンプの足が曲がった。これを無理に戻すと足が折れて万事休すなので、ラジオペンチで慎重に慎重に戻した。今日は予想される悪い出来事をことごとく起こしてしまい自己嫌悪に陥る。とりあえずオペアンプも収まったので、コンセントをつないで電源を入れてみる。無事なようなので一先ず終了して、音出しは後日に回す。
 うーん、音が出ない。オペアンプにテスターを当てて電圧をチェック、ちゃんと±12V出ている。既定の±18Vではないのですが、オペアンプの動作電圧に入っているので音質は兎も角、音ぐらい出るはずです。きっと流用品に問題があると思うので改造してみると、なんとか音が出ました。でも、よーく聴いてみると左は高音がシャリシャリ気味で低音が不足、右は低音が出ているけど中高音が詰まったような感じになる。期待を込めて数時間エージングしたけど変化なし。
 なんとなくNF部分で定数が違うような気がする。いくら古い部品を使っているとは言え、バラツキの中でこんなにダメなんだろうか。いずれにしても大失敗である。残念ですが、お蔵入りですね。

 何日かして気も落ち着いてきたころに、回路図を見ながら購入部品リストとにらめっこしていたら、回路図のコンデンサー容量は3,900pF、購入品リストは39,000pFと一桁違っているではありませんか。購入時にμFで検索しているので桁を一桁間違えている。きっとこれに違いないと思うのだが、自信はない。

 部品を買い直しました。今度は間違いなく3,900pFです、何度も見直したし届いたときの明細も確認しました。半田吸い取り線で半田を吸い取りますが、僅かに残る半田のせいで簡単には抜き取れません。逆に言えば僅かな半田で導通は確保できるということですが、なんとなく心細くなって付けすぎるから、外すときに苦労する。あーー、嫌な予感が的中してしまった。
 表側にも半田が出ているので、半田ごてで加熱しながら足を抜くんですが、無理に引っ張ったので基板のプリント線も一緒の取れてしまった。最後の一か所だったのに。仕方ありません、新しい部品の足をジャンバー代わりに接続します。仕事でもそうですが、間違えると苦労が連続しやすくなりますね。最近の部品ではなく、古いトロピカルフィルムコンデンサなので足の幅が広くて、すんなりと基板に嵌りません。
 足が短いので注意して曲げないと本体から剥がれてしまいます。(前回、壊している)なんとたったこれだけの作業で椿姫のCD2枚を聴き終わってしまった。ちょっと一息入れて、部品の半田付けを行います。ジャンパーさせる部分はずり落ちないように接着剤とテープで基板の裏側に貼ります。なんとか、4部品の取替が完了しました。あまりに暑い日中になったので、夕方まで休憩です。

 さて、涼しくなったところで試聴です。なんかドキドキします。買ったばかりのアートペッパーのレコードを掛けてみます。あー良かった、良かった、ちゃんとした音が出ています。軽やかに吹きまくるアルトサックスの音色とともに今までの苦労がどっと蒸発していくのが分かる。
 しかも、予想以上にいい音ではありませんか。5枚目辺りから音に落ちつきと艶も出てきたように感じます。ピックアップがピカリングのXUV4500Qなんですが、針が他機種のせいもあってか少しシャリシャリするところがあったのに無くなっています。おそらくブラシを外したのとシリコングリスによる1点支持のアームにしたことで良くなったとは思いますが、音色がフラットで切れ込みが鋭くなり、低音もしっかりと出ています。実に相性がいい、このピックアップがこんなにワイドレンジだとは思わなかった。批評に書いてある通りでした。このオペアンプの音は現代的でスピード感があり、一聴するとCDかと思いますが音の粒にパンチ力もあり、高域の伸びやかさも優れています。
 1957年のアートペッパーを聴くと前後左右上下と音場が球状に鳴っているのが分かります。1970年以降のスタジオ録音は多重録音になりミキシングされるので分からないです。ステレオ録音は1954年以降なので、その近辺の音はセッション録りで雰囲気がでるのだろうと思う。LT1115というオペアンプの謳い文句はウルトラ・ロー・ノイズ、静寂の中にとありますが、まさしくその通り、その静けさと硬質で細い線である小さな音も輪郭がでます。
 しかもアルトサックスの艶がでるのは、古い部品のおかげではないかと思う。特にネガティブフィードバックの回路にオイルコンデンサが入れてあり、Allen Bradleyの抵抗も使ってあるのがスパイスになっていると勝手に思いこんでます。オペアンプLT1115は1個450円で買えて、これだけの音像がでるのは驚嘆であり、やはり時代は進歩しているのだと思う。大したもんです。

 ピックアップをオルトフォンのMC30に替えて聴いてみる。繋いであるトランスは同じくオルトフォンのT-30で、今までは線のかぼそさが気になっていたのに全くそういうところはなくなって、低音から中音にかけて骨格が出てきてビックリ、フォノイコライザでこうも違うんですね。
 オーケストラは楽器の分離が良くなり各々の音が聴きやすくなったばかりでなく、アンサンブルも調和がとれている。これは、綺麗な高音に対して中低音のバランスが良くなったのが要因だと思う。
 一番驚いたのは魔笛のコロラトゥーラだ。デッカの盤はドイテコムが女王のアリアを謳っていて、以前は超高音部分でややヒステリックに聴こえる個所があったけど、今回はきちんと骨格が出ていて全くふらつきが無く、声が張り出てコントロールされているのが良く解る。このオペアンプの静寂な部分が超高音での響きをクリアにしているようだ。