最近クラシックを聴くことが増えたので、この本を借りてきた。題名はクラシックレコードとしているけれど、レコードビジネスの百年史として舞台裏の話を面白く読めるし、物語としても楽しいのは著者の並外れた音楽を文学で表現するボキャブラリの豊富さにあると思う。
芸術家の巨匠を相手に仕事をすることは自我のぶつかり合いでもあり、その景色をユーモアたっぷりに読ませてくれるところが本としても優秀だと思える。レコードの書評から一部抜粋で記載します。
ホロヴィッツ・ピアノ・リサイタル
『ホロヴィッツはサタンよりも多く復活を果たした。』
二つのヴァイオリンのための協奏曲
『終楽章はスタジオを早く抜け出してカリフォルニアの太陽のもとへと駆け出したい衝動にかられているようだ。歯医者に行った日のように、いつまでも続く苦しみのように思える。』
本の登場人物には日本のソニーの大賀さんも出てくる。その当時は日本がエコノミックアニマルと言われた時代で懐かしい。大賀さんは声楽を習っていて大のクラシック好きだったのは有名だけど、クラシックに膨大な投資をしていたとは知らなかった。
カラヤンとは親友を通り越して盟友だったのは知られている話で大賀さんの腕の中でカラヤンが息を引き取った話も出てくる。
それから、デジタル化の波を大賀さんが引っ張り、フィリップスが発明したCDをソニーが機材を作って売った話も出てきて興味深い。CDの静けさと再生能力がレコードを駆逐する展開になるのだけど、未だに僕はレコードの方が好きだ。
CDは優等生な音は出るけど、一音のエネルギッシュさと脆さは無いように思える。きっとこれは、レコード自体だけでなくカートリッジやフォノイコライザーを含めた再生装置全体の影響なのだと思う。
レコードを作るのに録音が必要だけど、磁気テープが既に使われていたのには驚いたし、ステレオが出てきたのは1954年ぐらいだそうで、それから半世紀も立たないうちにCDに変わってしまい、日進月歩の速さに驚くばかりだ。
また、録音技術の進歩は主にデッカが引っ張ってきたことも良くわかり、技術的な変遷も興味深く読むことができた。