SFアニメの金字塔:攻殻機動隊

 1995年にアメリカで公開されて大ヒットし逆輸入されたことで注目が一気にあがり、押井守監督の名を世間に知らしめた名作だ。もう作品のはじまりからカッコいいのだ。作者や出演者のクレジットされる出だし、文字が滝のように流れスロットルマシンのように揃ってゆくシーン、これはギアヌ・リーブスが主演した有名な映画マトリックスがパクったしーんだ。それぐらい海外では著名な作品で和太鼓に鈴の音が響き、女性コーラスとねぶたのような船が揺れるシーンは東洋の神秘を奏でるようでアニメ作品には思えない。冒頭に主人公の草薙素子の義体が製作されてゆく工程を眺めるだけでも目を奪われる。

 攻殻機動隊のシリーズは多くあるけど、TVシリーズのSTAND ALONE COMPLEX1が特に好きだ。後半部分を主に占める笑い男を通して神山健治を知った。最後の図書館での会話はちょっとうざったいのが気になるが、外部記憶装置で検索しないとわからない会話だと荒巻課長が言うのだけど、作成された当時は未だ2002年でGoogleが設立されて僅か4年のときなのだ。この漫画は1989年に発表されており、Webなんてない世界に広大なネットの世界観が析出しているのだから原作者の士郎正宗には驚かされる。すでに2019年になる今、Webでなんでも検索できるし写真や動画、このブログですら外部記憶装置にあり、自分すら投影される世界に浸りこんでしまった。未だ電脳の世界になっていないけど、身体に通信機器を埋め込むことが始まっている。外部記憶装置と脳がつながったら今までの入学テストは、検索方法のコンテストに代わってしまう。電脳にしてもAIのシンギュラティまで遠くはなく、ホーキング博士の警告を心配するばかりだ。

 さて、原作を描いた士郎正宗だが、他の作品としてはアップルシードが有名だ。これまた作品名が篩っている。攻殻機動隊という作品名は作者の意図ではなく、作者はGHOST IN THE SHELLにしたかったらしい。PHANTOMと言わずにGHOSTと言っているのは、草薙素子の「私のゴーストが囁くのよ」という言葉につながっているのだと思う。彼女は生まれながらにして全身義体で電脳化も図られていて、どこまでがオリジナルなのかに悩まされる。しかもこの漫画の世界では記憶が書き換えられてしまうこともあるのだ。だからここで言うゴーストとは魂なんだと思う。だからGHOSTなんだろう。漫画の特徴はやたらに欄外説明が多くて話題になった。なにせインターネットなんてない時代なので注意書きがないと意味不明な単語になる。ゴーストハックなんて言われたら幽霊を犯してどうするんだろうなんてくだらない発想しか出ない。抗性防壁だって難しい、現代でもウィルスソフトはあるけど、ウィルスの元を攻撃するようなソフトはない。漫画自体が少年向けには遠く、漫画の世界観を説明する必要があったようだ。メンバーの中に義体ではなく、ほぼ生身の人間であるトグサがいるけど、彼の選択理由は同じ種族はたった一つのウィルスで全滅する。だから性質の違う者が必要だと草薙が応えている。これは、ダイバーシティ(多様性)の概念と同じだ。日本人は島国なゆえに暗黙の了解みたいな同一民族だからこそみたいな点があり、ダイバーシティと言われてもピンとこないように思える。この点が世界で活躍できる企業が少なかったのではないかと思う。脳が消えてもネットの世界にコピーされる世界が来るのだろうか、1989年によくも画けたものだ。2019年に観ても違和感のないどころか、画いてある通りに進んでいる。