ユリシーズ ジェイムズ・ジョイス著

 長い休みをつかってユリシーズを読んだ。ユリシーズはホメロスの『オデュッセイア』の主人公の名前で各章の前書きに、オデュッセイアとの対比を示してある。でも、僕はオデュッセイアを読んだことが無いので?である。ジョイスの作品としてはこの後に難解なというか意味不明な『フィネガンズ・フェイク』があるけれど、すでにその兆候が表れている。この前作の『ダブリン市民』の作風は写実的で心理描写も旨く、行間も濃い文章だった。それが、人の思いと言う脳細胞の活動というか、数秒の時間の中にころころと湧き上がり変化するイメージが語られるようになり、フィネガンズ・フェイクでは不明になってしまった。絵画でいうところの写実から印象派、キュビズムから抽象画への移り変わりを文学で表現したかったかのように思える。

 プルーストの『失われた時を求めて』と並び称される20世紀最高の長編小説と言われるけど、両方ともに何が最高なのかは良く分からない。どちらも出てくる人物が多く、各人の特徴を綿密に描き分けられており、状況の描写にも優れている点は共通している。でも、街の情景についてはユリシーズの方がイメージしやすいように思え、その時代の営みを表す文学としては、どちらも優れているように思う。もっとも、どちらも全編を読んではいないけど。