TU-8600R (エレキット) 300Bシングル 真空管アンプキット 製作:レビュー

 YAMAHA A2000の調子が今一つで左へ音が寄るし、音の切れ込みや鮮やかさが薄れてきたように思うこの頃だ。そこでなんとなくアンプをWEBで見てしまうのだが、真空管アンプの記事を読んでいると出力が小さいのに良質で大きな音が出ているのが目にひく。パワーアンプで真空管を使ったことが無いので気になって仕方がない。
 出力の大きいソリッドステートがあるので、やはりシングルの300Bの音が聴いてみたいと思う日が続いた。手が届く範囲で良さそうなアンプはTU-8600なんだろうなと思っても既に完売済である。
 世の中は不思議なもので、人は意識すると対象物が目に入ってくるようになる。何気なくサンバレーさんのサイトを見ていたら、エレキットTU-8600Rを販売している。過去のページを見ているのではないかと確認したが、やっぱり1台だけ販売している。これは買わなければと思ったのだが、ちょっと物入りだったのでためらってしまった。明日の朝に残っていたら買おうと思ってサイトを閉じた。翌朝になったらまだある。これは買えとの思し召しだと思い、苦しい懐だったけど買ってしまった。300Bの真空管はないのでセットで購入したけど、WE仕様は高くて手が出なかった。

 


 師走に入ったところでもあったので、箱の中身を袋単位で大雑把に確認して再度梱包した。半田付けが主な作業だけど、そのまえにコンデンサと半田を手に入れる必要があった。半田は無鉛タイプに切り替えていたけど何がいいのかに迷っている最中だったので、記事を見て思案したところ、やはりKesterだと思いKester48の銀入りタイプを探して買った。これを切り売りしてくれるところは少ない、実に良い半田なのでもう少し出回れば安くなるのにと思う。もう一つはカップリングコンデンサをどうするか、それから回路図を見てみると音の通る道で使う抵抗は入り口だけなので、これも変えておこうと思いWebを参考にした。コンデンサはChriskitMkⅥのメンテをした時と同じように、初段側をオイルコンデンサにして出力側をTRWのフィルムコンデンサを買い、抵抗はDALEのNS-2Bを買おうと思ったけど、抵抗値であうのが同じで店ではRS-2Bだったのでこちらを購入した。なんとか年末までに必要な部品は揃った。



 
 基板に部品を半田付けすれば出来上がり、配線の不要なところが不慣れな拙者にも非常にありがたい。でも変更した部品は何かと問題は出る。まずはDALEの巻線抵抗RS-2Bの脚が太いから基板に入らない。せっせとヤスリで削り嵌め込む、音の通り道で抵抗があるのは初段に入る前だけなのでL・Rで一ヵ所変更する。真空管アンプと言っても基板には新しい素子が使ってあってハイブリッドアンプと言っても良いのではないかと思う。
 整流用のダイオードに回復時間が短いショットキーバリアダイオード、ファストリカバリーダイオードが3個使われており、脚を曲げてビスを止め半田付けする。きちんと放熱されるように基板ができている。それからフォトカプラがあり、用途の一つであるアナログ動作:スイッチングレギュレータの誤差帰還として活用されているし、導電性高分子コンデンサまでも使われている。
 そして、出力トランスでは専用三次巻線による300Bへのカソード帰還や、電圧増幅段のみの帰還など、極めて安定な局所NFBを採用し、オーバーオールのNFB量を少なくすることで、過渡特性の悪化を抑えたとあり、実に良く設計されているのに感心するばかりだである。





 次の変更点はカップリングコンデンサで大きなコンデンサに替えられるようにホールの位置が複数空いているので、初段にSPRAGUEのオイルコンデンサ、終段にTRWのフィルムコンデンサを難なく取り付ける。困ることは巻線方向により取付方向があるとのことだけど微電流が測れないので印字方向のみ合わせる。
 最後の変更点はボリュームで、今回は使用せず直結にする。標準品はアルプスの50KΩタイプなので同じ抵抗値のDALEを付けたのだが、曲げてもカバーに当たりそうなので薄いゴムを貼っておいた。CDになってから出力電圧が上がりプリアンプが無くても音楽が聴けるし、最近はDACとPCだから余計にプリアンプの影が薄いようだ。
 でも拙宅ではレコードが多いしカセットデッキまでもあり、アキュフェーズE-470 のボリュームは優秀でプリの出力直前にボリュームがいるし、A2000もあればChriskitもいるのでボリュームを増やして音を劣化させることもないので外すことにした。



 仮組ができたので、コンデンサの向きや大きさを再チェックしてから通電してみる。異常な発熱や音はないようなので一安心、テストポイントが数多く設定してあるのでマニュアルに記載されている電圧を確認する。
 次は真空管を差し込むのだけど、300B を手にするのは初めてで、大きくて美しい曲線を描いたラインを見て目じりが下がった。JJのECC83Sを中央に1本、その両側にJJのECC82を2本、更に外の両側に300Bを2本差し込む。このキットには真空管は付属しないのだけど、サンバレーさんで真空管をセットで買った。
 300BはPSVANEのWEモデルが欲しかったけど、高くて手がでず通常品にした。このセットだと12AX7(ECC83)12AU7(ECC82)にはスロバキアのJJ-ELECTRONIC社製となるが、ECC83にはSが刻印されているので高信頼管が付いてきてちょっと嬉しい。1時間ほど通電して真空管のヒーターが綺麗に光っているから、電源を一度切って、音出しチェックのためRogers LS3/5aに繋いでみた。11Ωの初期型で能率が82.5dBと低いのが気になるが、中低音域は125㎜と小さいので良いと思う。今まですんなりと音が出たことが無いのでとても心配なのだが、なんと一発で音が出て感動した。
 これは、エレキットさんの組立説明書が大変良く出来ているおかげだと思う。真空管のエージングをしていないせいか、百恵ちゃんの声が左右からドップラー効果のようにでるので驚いたけど、すぐに収まってセンターからみずみずしい歌声が聴けてほっとした。







 真空管と言うと音質がウォームでセピア的な評価をよく耳にするが、拙宅のプリアンプやフォノイコライザーでそのような音にはならない。このパワーアンプTU-8600Rは半導体とのハイブリッドのような構成なので、これも同様に世間の評価と違うだろうと思っていたけど、それを飛び越えて最新の高価な半導体アンプと変わらないのには驚いた。ハムノイズもマイクロフォニックノイズもホワイトノイズもしない。音の立ち上がりも早いし各楽器の音像も鮮明で艶やかで、LUXMANのソリッドアンプの方がよほどウォームな音質だと思う。また、拙宅のアキュフェーズE-470の方に近くて、超高音域が薄いガラスを指で弾いてキーーンという強く押したら割れてしまいそうな響き方が印象に残る。だからと言って線が細いわけでもなく低中音域では芯のある鳴り方をしてくれる。まだまだエージングが進んでいないけど時間が経つにつれ表現力は増すことだろう。
 今回はE-470から接続しているけれど、ChriskitMkⅥYMAHA A2000からも繋いでみたい。レコードはオペアンプLT1115でロイ・ブキャナンをかけてみたら、泣きのギターのチョーキング部分なんか絶妙で思わず聴き入ってしまう。リーズナブルなお値段で一流品を手にでき、評判以上に非常に優れたアンプだと思う。300Bのシングルで出力は9Wだけれども十分である。E-470でも大きな音で聴いて数ワット、試験的に爆音で聴いても瞬間的に針が振れるは18Wまでだ。だから、9Wもあれば十分なわけである。しかも、高音だけでなく低音もタイトな張り出しがあって大きなスピーカーでも問題ないように思える。そう考えると庶民の家で100W超のアンプが必要なのかは謎である。このエレキットTU-8600Rは、運よく最後の1台をサンバレーさんが発売してくれたのを購入できて本当に嬉しい。


 2ヵ月ほど過ぎて随分と馴染んできたように思える。カートリッジAT-33SA→トランスT-30→プリアンプChriskitMkⅥ→パワーアンプTU8600R→スピーカーLS3/5aで聴くと今まで聞いたことが無い音を奏でてくれる。随分とLS3/5aとは付き合ってきたけど、能力をつかっていなかったんだなぁと思う。ピアノやヴァイオリンのソロを聴くと堪らなく麗しく響き、特に弦の音がいい。夜更けに小音量で鳴らす300BLS3/5aの音は凛凛としてはっとすることがある。楽器が少なく生音の録音だと滑らかできめの細かい音楽を愉しめる。

プリアンプ クリスキット修理編 その1