その常識は本当かこれだけは知っておきたい実用オーディオ学 岡野邦彦 著

  著者の岡野さんは東大の原子力工学を専攻されて、天文写真のデジタル技術において露出時間大幅に短縮する方法を開発した人だそうです。デジタル技術で露出ならば微積分の世界ですから、CDやハイレゾなどの理論解説は間違いなさそうです。実際に読んでみても非常に解りやすく理論的な説明でありがたいです。なにせ、オーディオは感性的な部分が多いのですが、感覚的な好みの部分と理論的な部分を的確に区別して話して頂けます。理論的に正しいことと好きか嫌いは別問題ですから、その通りだと思います。大きく4つのテーマに分かれていて、アース設置、CD・SACD&ハイレゾ、部屋の音響修正、ケーブルの接続となっている。


 アースについては疑問に思っていたことが氷解して助かった。トランジスタのアース端子を繋ぐ先がなかったのだけど、浮いていて大丈夫のようです。でも、レガシーなアンプは接続した方がよいようなのですが、とりあえずノイズが出ていないので良しとします。でも、フォノイコとMCトランスについてのアースの話がないのは残念でした。ハイレゾは可聴範囲外の高音域だけが特徴ではなく、音と音のつながりが細かくなり鮮明さが増すことにあると思っていましたが、その通りのことが解りやすく説明されてます。テレビでもデジタルが4Kになると画素数が上がり鮮明になるのと同じです。CDの44.1kHzだと音と音の隙間が割とあるので推測ロジックで補正しているようですが、滑らかにしようとすれば非常に高い計算速度が要求されるわけで高価なものになるわけです。デジタル技術が進めばCDの再生音もより良くなるのではと書かれていますが、16bitだとダイナミックレンジが96dbなので音圧の課題が解決されないように思えます。レコードとの差が出るのはダイナミックレンジの問題だと思うのですが、どうなんでしょう。最近の録音で96kHz 24bitのハイレゾを聴くと差は明らかだと思います。あとアップサンプリングですが、音と音の隙間をどう繋ぐかだと思いますから、推論エンジンとパワーのあるCPUが必要なように思われます。リアルタイムでは難しそうだったので、CDの音源をDSD256にコンバートしたソースを再生してみましたが、良くなったようには聞こえません。音のエッジが丸くなって反ってダイナミック差がなくなったように思えます。

 部屋の音響については聴く場所によって落ち込む周波数が違うようで、立ったり座ったり、前へ後ろへと動いてみるとかなり違うことを実感します。まぁ、スピーカーからの角度によっても変わるので、設置方法でも変わります。スピーカーを置く位置も限られるので、ソースによって微妙に位置を変えて聴くことにしています。McIntoshのC40の5バンドイコライザーが重宝していたのを思い出します。REWという周波数測定ソフトがあって、部屋のシミュレーションができる機能もあり、無料なので試してみるといいです。『REW 使い方』で検索すると詳しいサイトが出ます。それから最後のケーブル接続は、デジタル機器のインピーダンスには気を使うようにとの内容です。

 薄い本なのですぐに読めてためになるのですが、価格がそこそこするので図書館で借りるのがいいです。意外と図書館にあるもんですね。

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