演奏家または作曲家の名を題名にすることが多いのだけど、珍しく指揮者に惹かれて音楽ソースを集めてしまった。有名な指揮者の音楽はどれを聴いても素晴らしく、指揮者の違いは気にならない。でも、カルロス・クライバーはちょっと違う。音のテンポがとか表現の仕方とか音楽構成のことではなく、アンサンブルの音そのものが精緻で特級品の粒たちで明滅する。弦のフレーズで余韻が残るようなときに高い音から徐々に低い音へ重なりながら4弦が響くように聴こえる。こんなことは経験したことがなかった。クライバーは練習が厳しくて長いことで有名だけどそれが現れているのだと思える。
魔弾の射手 ウェーバー作曲
カルロス・クライバー最初の録音で音質も優れている。序曲がわりと長くて優雅でメロディアスな旋律が綺麗で心やすらかに聴ける。ヴォーカルは前に出て少し奥まったところに伴奏が響き、アガーテのソプラノは艶やかで響きがあり線も細くなくすがすがしく聴こえ、カスパールのバスは朗々と唄われ、伴奏と融和して実に雄大である。なのでほんわかしている内に1枚目が終ってしまう。
続いて2枚目は第2幕の魔弾を造るシーンで暗くて重く不気味な雰囲気が漂ってきます。そして第3幕のクライマックスへ向けてスリリングな展開の音楽が気持ちよく聴けますし、アガーテの歌声もより緊張感が盛り上がっていいです。アガーテ役はグンドゥラ・ヤノヴィッツで魔笛ではパパゲーノを演じるなど数多くの録音があるのですが、カルロス・クライバーでの録音はこれだけなのがちょっと残念です。 セリフの多いとか曲のメロディがとか構成とかではなく、またこの音がこの音楽が聴きたくなってしまう。結局のところ魔弾を放ったのはカルロス・クライバーなのではないかと思う。
こうもり リヒャルト・シュトラウス作曲
録音が良いと言われているのですが、LPレコードを聴く限りでは普通に思える。ハイレゾでリマスターしたものがよい音なのかもしれない。それでも若いルチア・ポップの声は綺麗だし張りがあるし、第2幕のアリアを聴くだけも愉しめる。オルトフォンのSPU GEとMCトランスSAT-6600の組合せで聴く唄声はすぅーっとしたキレがあるのに骨格があり艶があっていい。
どの作曲家でも曲の中に他の曲で使われたテーマやフレーズが出てくるものでワルツを聴いているとシュトラウスだなぁと実感してしまう。話も面白おかしい茶番劇で、仮面葡萄会は滑らかに注がれる音楽にあわせ踊り歌い、ときにはスネアドラムが行進曲のようにはいる。オーケストラと歌声の兼ね合いが綺麗でコラトゥーラは実に子気味よく、すんなりと身体の中に溶け込んでしまう。劇はめでたしめでたしで終わり、良き時代のウインナワルツである。
シューベルト交響曲3番、未完成
シューベルトの曲はどれを聴いても癒されて少しばかり朗らかになれる。なんとなく日常の優雅さと折り目正しさがあって身近な出来事で花が咲いたり、子供がおばあさんをちょっと手助けしたりと小さな仕合せがシューベルトから聴こえてくるようです。
室内楽曲や歌曲と比べると交響曲は馴染みにくいように聴こえるのだけど、カルロス・クライバーの場合は音の粒が綺麗で心地よくのほほんとしてしまうのだけど、録音が今一つでコーダなど盛り上がって多くの楽器が鳴ると混濁して飽和してしまい分離して聴こえないので、クライバーの良さが際立たず残念です。
3番の明るくてメロディラインが優しくてシューベルトらしくオーケストラが鳴り、未完成は今までのシューベルトから趣を変えようとしているように聴こえるけど、落ち着いた響きは厳かにならず澄みわたる草原を想い起す綺麗な旋律に癒されます。リマスターしたハイレゾ音源が出て欲しい。
ベートーベン 交響曲第5番
言わずと知れた『運命』です。出だしのドアを開く音から迫りくるような音に怯えてしまうので買おうとは思わない曲なのですが、カルロス・クライバーの名演と称される第7番とセットになっているものだから、PCM96kHz 24bitをダウンロードしました。でも、改めて聴いてみると怯えよりもハーモニーの綺麗さに浸ることができてうれいしい。カルロス・クライバーでなければ買わなかったでしょう。
カルロス・クライバーにかかると弦の織りなすハーモニーは非常に素晴らしいと思えるし、オーケストラ全体がしなるように滑らかに力強いエネルギーを発してくる。こんな運命もあるんだなぁと聴かず嫌いを反省する。
これはPCM96kHz 24bitだからリマスターしてあるのかなと思える。オケのみなぎる力がしっかりと伝わってくるし、演奏もさることながら音質の良さも上出来だと思える。こういう音を聴きだすとなんだか大きなスピーカーで聴きたくなってしまうのだが、天井を倍の高さにして奥行きを1.5倍にとも思ってしまう。それにしても家にいたまま高音質な音楽ソースが手に入り、すぐに聴ける時代が来るとは思わなかった。
ベートーベン 交響曲第7番
ベートーベンで好きな交響曲は6番の田園で次の7番をほとんど聴いたことがなかった。でも世の中では人気のある曲のようでカルロス・クライバーは3回の録音があるようだ。これはウィーンフィルの録音で巷で名演と称されるバージョンです。カルロス・クライバーの出した録音ソースはどれを聴いても素晴らしいのでどれも名演のように思える。これで録音とマスタリングがよければ言うことなしなのですが、ブラームスの録音はこもるというか音が塊になる部分が僅かにあるし、こうもりのレコードは音が割れる部分があってほんの少しばかり残念、この7番はPCM96kHz 24bit版なのですが、録音自体に少しばかり曇るというかオケの音が固まるようなところがあり、リマスターせずに単にサンプリング周波数とビットレートを上げただけのように聴こえる。5番と合わせて配信されていて、5番はとても良い音なので録音自体の問題なのでしょうか。
演奏は軽やかで第1楽章を聴くとベートーベンの重さが無く、若いころに作曲した7重奏曲を想起させられます。第4楽章などはアップテンポなリズムでメロディラインが流れてウキウキしてきて、カルロス・クライバーとウィーンフィルの粋な調べを堪能でき、美しいという気持ちになってとても心地良いです。
ブラームス 交響曲第4番
こんなに雄大に響くブラームスは壮大で気持ち良いです。ウィーンフィルの優美さと大胆さが備わって美しい弦の響くブラームスとは違う面が出ていて面白いです。第3楽章のテーマの特徴あるメロディが印象に残る曲で、ブラームスは交響曲より協奏曲の方が印象に残るメロディが多いと感じます。その印象ある主題が輝くように指揮を振っているのがいいです。
CDのダイナミックレンジを稼ぐために音圧を上げてあるようですが、壮大に響く部分で僅かに破れるし低音が塊る部分があるのですが、それを差し引いてもカルロス・クライバーの巨きさに引っ張られていきます。リマスターしてDSD128あたりで出してくれると、ダイナミックレンジと弦の優美さの両方が出てとても素晴らしくなるように思えます。
ヴェルディ オテロ
いきなり音が割れている。あまりにも録音がひどくて耳を疑ってしまった。しかも1976年にミラノスカラ座で録音しているのに、なぜかモノラル録音だということを聞いてビックリしてクレジットを確認したら、なんと海外のレーベルの名がない。
どうも海賊録音らしい。客席の咳払いが生々しいことから客席から一つのマイクで録ったもののようだ。カルロスの音の積み重ねなど聞けるわけでもなく、音がこもってオーケストラには思えない。とてもガッガリです。
どうも日本コロンビアが来日記念で企画したものらしいけど、これを当時5,700円で発売したのは残念に思う。ラフマニノフ自作自演の録音もひどいけど、歴史的記録としての価値があるが、これは出演者には気の毒としか思えない。