PRINCIPLES (人生と仕事の原則) レイ・ダリオ 著 斎藤 聖美 訳

  ブリッジウォータという世界最大となったヘッジファンドの創設者レイ・ダリオが重ねてきた思考と実践を著した本を読んだ。投資のノウハウかと思ったらそうではなくて物事をなしえてゆくために論理的なフレームワークを展開する内容であり、人と協同して進めるにあたっての原則が書かれている。
 その基点となるのは、目標の設定と自分で考えるということ、そしてアイデアを主幹として透明性を高めていくことで良い人間関係と良い仕事ができ、やりがいと達成感が得られ幸福度があがるというという展開です。

 基本的に書いてあること自体は他でも見られることですが、それを体系立ててシステム化しナビとして活用できるようにしているところがすごいと思う。
 これを読むとトヨタ生産方式の考え方と酷似している。感情に左右されない様に注意し、事実を見極めるというのはトヨタ用語の『現地・現物』であり、問題点や失敗から要因を探り対策するのは、『改善』そのものだし、トヨタの工場に『良い品、良い考え』」という大きな看板が掲げられていたのですが、この本では良いアイデアが良い仕事をもたらすとしています。
 また、要因を探るのに表面的なことだけではなく真因を探すとありますが、これなどは『なぜを5回繰り返せ』というトヨタ用語があります。そして両社ともに考え方を体系立てているだけではなく実践するにあたり研修を積み重ねている点も同様です。

 この本では5ステップでの展開としていますが、目標+PDCAと置き換えてもいいかと思います。これだとなぜブリッジウォーターは凄いのかとなるのですが、それはDoの部分で感情に左右されずにどう論理的な議論をするのかということで、人の性格を判断し組合せやミッションに適切な人材を選び出し意見を得る仕組みがシステムとして構築してある点にあると思います。
 ドットコレクターというシステムで数十種類の性格属性に分けて分析し、それを会議者が閲覧できるし、会議の中で点数づけも行う仕組みになっている。これは余程会社の信頼性がないと耐えられないように思える。
 これに慣れるまで18カ月間は必要だと記されているし、性格判断だけではなく会社の運営や人事評価などにおいても透明性が高くないと維持できない。透明性を維持できるかどうかは経営幹部の意思によるわけだから、幹部は聡明で教養がありモラルの高い人でないといけない。
 未だ創業者が健在だからいいのですが、どこまで堅持できるかは未知数のように思えます。あわせて高い生産性を求められるのですから、当然合わない人も出てくるわけですから、退社を進めることも前提のようで日本では難しい面もあります。
 しかし、人の性格判断するテストは随分と正確になってきていますし、どの業務にどのような性格が合うのかも設定できると思うので、人員採用において構築すべきだと思うし、数年ごとに性格テスト行い適材適所を組合わせるのは非常に有効だと思えます。
 また、仕事の履歴や成果、性格なども野球カードと称される人事データベースに蓄積され閲覧できるようになっています。人事評価のやり方をかいていないので残念ですが、仕事内容の履歴がありスキルがわかるのは良いことだと思います。
 この仕組みがある会社でないと多様性を包括し、国を超えた人材活用が必要なグローバル展開は無理だと思えます。それにしても感情論をさけた議論を行うことがいかに難しいかということが良く解りますし、
 忖度などという行為はまさしく感情での行動であり、個人にしか利益が生まれず、利益の最小化を起こしていると思われます。
 未来についてよく分からないことを決断する場面は日常的に起こるわけですが、そのタイミングですべきかどうかが重要であり、博打のようにならざる得ない時、リスクヘッジの手も考えるべきです。それを補佐するシステムとしてコーチなるものがあるというのは宝のように見えます。

 本の厚さが太くて570ページほどあり、読むのが大変だと思う場合はブリッジウォーターの歴史部分だけでも読むといいと思います。本書では、ここは読み飛ばしてもいいと書いてありますが、逆のように思います。
 人生と仕事の原則については真ん中あたりに目次のようなまとめページがあるので、そこを読めばかなりのことが類推できますので、不明に思われる項目を熟読するのもありかなと思います。
 拙者はすでに閑職の身なので新たな仕組み(システム)を作ることはなさそうで残念ですが、製造においてトヨタ生産方式の導入とPCネットワーク黎明期から生産システムを構築し、営業では価格管理や新製品販売ステップなどを構築しましたが、人と人の問題については課題を残したままで、この本を読んでやる人はやるもんだと感心する次第です。

何かの縁でご助力できたらなとも思うこのごろです。


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