『罪人を召し出せ』を読んでみた

  ヒラリー・マンテル 著  宇佐川晶子 訳

 16世紀英国の宮廷における権力闘争を画いた作品で、ヘンリー8世の王妃アンの」凋落を枢機卿トマス・クロムウェルの視点を通して物語は進む。NHKの大河ドラマだと思えばわかりやすい。でも、教訓や感動するような場面はない。


 ヘンリー8世と言えば、カトリック教会に逆らってイギリス国教会を創出しおた人物として名高い、それも最初の奥さんと離婚してアンと結婚をするために。もっともそのおかげなのか、6人もお妃を取り替えている。

 ヘンリー8世の人物像としては、イングランド国王としてインテリでスポーツマンの文武両道と語られているけれど、いかがなものであろうか、少なくともこの本の中ではそのような文章は見当たらない。二人もトマスは処刑されているし、アンも処刑される。トマスの内のもう一人は、ユートピアを描いたあのトマス・モアである。

 多くの人が処刑され、戦争にも負けているのを見ると暴君のような気がする。そういう意味では、暴君ネロに仕えたペトロニウスを思い出す、もっともペトロニウスは自殺したけれど。

クロムウェルは王妃アンを離婚に追い込むために辣腕をふるうけど、謀略家のように書かれている。もっとも凋落した要因はアンの自滅であり、ハラハラドキドキするような宮廷内のおぞましい権力闘争の展開が描かれているわけではない。クロムウェルよりペトロニウスの方がより気品と知性を感じられる。

ちなみにウルフ・ホールが前作でクロムウェルがのし上がる話で、鏡と光りが凋落する話となる3部作。