赤い高梁 莫言 著 井口晃 訳

 高梁とはイネ科モロコシの品種で赤い花が咲き、葉はトウモロコシにそっくりなので、トウモロコシのような実がなるのかと思いきや、大き目な粒の実が稲のように連なります。


 そんな高梁畑が雄大に広がるなかに起きた支那事変に対する抗日事件の物語です。主役は祖父と祖母になり、まごが「わたし」と称して物語を綴ります。そしてその「わたし」が作者の莫言かと思うほど、リアリティな文章でフラッシュバックやカットバックが多用され、まさに映像が明晰に映し出されて動き始めて映画を観ているような錯覚に陥ります。(紅いコーリャンと言う有名な映画の原作ですが、私は映画を観てはいません。)

 日本軍が鬼子として描かれ、反抗するものに醜い処刑するシーンなどは見ていられません。思わず本を置いてモーツァルトのレクイエムをかけて、大爺の魂を弔ったほどです。日本で鬼を斬るアニメが流行っていますが、鬼は人の中に居て憎しみが連鎖するのでしょう。戦争とは鬼を産む胎。

 こんなに文章の上手い作家で他を知るのは二人だけで、一人は川端康成、もう一人はJDサリンジャーです。でもこの二人は人の空間にある雰囲気や人と人の思いの重なりなど、目に見えない情景を描いていましたが、莫言は目前の情景が見事に映るのです。どんなに上手な作品でも、描写になかには抽象的な擬態があって雰囲気は分るのですが、リアリティに欠ける嫌いがあり、現実的な文章の上手い作品はどことなく味気なく、感情の昂揚が少ないのですが、この作品はリアリティがありすぎて感情が揺さぶられます。

 作品の中でも高梁で酒造りをしており、良い香りがする旨い酒の醸造所を営んでます。この酒がバイチュウです。ずっと原料がトウモロコシだと思っていたのですが、イネ科の高梁だったことを知りました。台湾を仕事で巡った時に、日本人が来たということで、日本語の話せるお爺さんが出てきて一杯呑めとショットグラスに注いでくれました。ほんのりと甘い香りのする透明な酒でバイチュウだとすぐわかりました。嗅ぐと度数の高い酒のひんやりとする香りが漂ってきます。ぐいっと飲み干すと焼けるような喉越しながら、味わいのある旨い酒です。どなんの花酒よりほんのりと甘いです。立て続けに二杯を飲みかわし、三杯目を注いでくれそうとして頂いたのですが、仕事中に60度の酒をショットグラスとは言え、三杯煽ったら仕事にならなくなるので、泣く泣くお断りした時に、淋しそうなまなこを観て、大変申し訳なく思ったことが蘇りました。

 本の中では第4章などに出てくると注釈があるのですが、第2章で終わってます。しかも、いかにも途中でこうご期待あれ的に終わるところなどは、TVの連側ドラマですし、作品の構成はインディージョーンズを思い出しました。

 読み終わるとウクライナで戦争が始まった。悲惨なことが現実に起き、子供たちが国境を越えてゆく姿を見たら胸が痛くてしょうがない。自分にできることは少額な寄付しかできず、ユニセフが暖かい飲み物と希望を届けてくれることを切に願う。