ウォーターダンサーを読む  タナハシ・コーツ 著 上岡信雄 訳

  アメリカで奴隷制度が色濃く残っている時代に自由を求めて生きた神秘的な力を持った青年ハイラムの物語。


 ハイラムは奴隷制度のあるヴァージニアに白人の父と黒人の母に生まれたのだけど奴隷であり、幼いころの記憶がぼんやりとしていてウォーターダンスを踊る母の面影しか知らない。そんな記憶が呼び起こされるとともにウォーターダンスの伝説の力を知る。

 白人の兄を馬車に載せて帰宅する時に川に落ち、奇跡的にハイラムが助かり回復するまでに百ページを要する。奴隷の辛さなど感情の揺れがあるのだけど、なぜか文体からはその息吹を感じないし、押し寄せてくる波もなく進んでゆく。物語の内容と文体の雰囲気が違うのは意図的なのだろうか、穏やかな中に歴史を刻みたかったのだろう。

 ハイラムの神秘的な力を導引と呼んでいえるのだけど、キング牧師の演説を想い起した。その演説はリンカーンが奴隷解放宣言をした100年後だった。