大いなる眠りを読んでみた  レイモンド・チャンドラー 著 村上春樹 訳

 ハードボイルドを産んだマーロウの1作目。ミステリーで推理小説のような雰囲気を醸しているけれど、そのどれでも無くやっぱりマーロウの生き様がじんわりと主役を作ってゆく、ハドボイルドなる所以だろう。


  レイモンド・チャンドラーの文章は簡素で味気なく厳ついように感じるのだけど、1作目は意外と文学的で情緒感を備える。なんとなく続編の名台詞を残すと共に文学的なあしらいが減衰してゆくように思える。でもこの作品は訳者の村上春樹が存分に日本語化しているところからも周囲の表現力に長けていて文を読むのも愉しい。
 ポワロやホームズでもこの謎解きは難しかろう、マーロウのハードボイルドでなくては解決しないし、ある意味解決はされない。その点には多くの疑問が残り、なぜマーロウは探偵を継続したのであろうか?依頼主との再会の会話に応えはあるのだけど、答えになっているとは思われない。マーロウの思う探偵業へのこだわりからもズレているように思えるところが、この作品の謎であり作家のテーマでもるように思える。
 ヒーロー的な流れはヒーローでないと起こらない偶然のように感じるけれど、それはどれもドラマだからなのだろう。いずれにしても傑作だと思う。