不条理が道理になってゆく様はぬめりがあって生々しい。日本の作家が描いたとは驚嘆するばかりです。
島の暮らしの中から物が消滅していき、その物に関する記憶も消えてしまう。消えゆくべき物を保持していたり、その記憶が消えない人は秘密警察の記憶狩りに捕えられてしまう。主人公は作家であり、本の中に作品を展開しており、現実の影響を色濃く帯びていてどちらも不条理な世界に従順に埋没してゆく。しかし、身の危険をおかして記憶が残る人を匿うことにした。ラストシーンはKの門をふと想い起こした、いやパンドラの箱かも知れない。
この物語から思い出す日本の小説では阿部公房の小説だけど、砂の女より日常的で生活を営む様が漂う。1999年に発行されているけれど、英訳されてブッカー国際賞の最終候補に上がったのは2020年です。どなたが英訳したのか知れないけど、20年後に英訳された方は素晴らしい。芥川賞は新人という枠組みを外すべきだと思う。