祝宴を読んでみた  温又柔 著

  台湾生まれの日本育ちの作家と同じ環境の家族を描いたお話し、中で家族間の繋がりや、知人隣人の助けなどを柔和な文章が安らぎを作り、核家族になりすぎて血筋の縁故を忘れてしまったことを肌に感ずるこのごろ。


 還暦を過ぎて初老に差し掛かるものの会社の長として忙しく生きる父を中心に嫁と娘2人の家族の日々の営みが綴られていて、仕合せな家庭の典型でもあるのだけど、二人のお爺さんとお婆さんは台湾と中国に分離する時代を生きてきた感情が家族形成の織り成す1ページを刻み込んでいる。

 そして日本で育った娘2人の生き方もまた各々で娘が生まれた時の喜びと育つ姿を糧にして生きる父親が祖父の姿とダブるだけに、長女が子を産まない愛の選択に心揺らぐ父のありようがみずみずしく感じる。

 ありふれた日常の中に歴史があり、そして未来もある。でもそれがお話しになるのはやはり柔和な心のつながりを感じるからなのだろう。