クラウド・アトラスを読んでみた デイヴィッド・ミッチェル 著 中川千帆 訳

  6編からなる中編を時代に分けて連ねた本。上巻は過去~未来へと流れ、下巻は未来~過去へと流れる配置なので、各中編が上下に分かれる。そのため、上巻の最初の物語りの続きが下巻の最終からとなる。


 各中編の話は独立したものだけど、何かしらの話題として前の中編が出てくる。また、特徴のある痣を持っている人が出てくる。時代を経て物語が組み合わされることや痣を持っていることで、三島由紀夫の豊饒の海を思い出す。
 全体を通して感じるのは善良なる者の闘争をモチーフにして、サスペンス的な躍動感が小気味よく描かれて読者を飽きさせない。各編の設定がまるで違うのに時代背景や心理などが実に上手く描かれていて、スティーブン・キングの様にあふれるように文章が湧いてくるかのようで、物語り作家の才能が輝いている。