『調書』を読んでみた  ル・クレジオ 著  豊崎光一 訳

  フランスとモーリシャスの二国籍を持つ作家ル・クレジオの1963年に発表されたデビュー作です。主人公アダム・ボロを通じて語られる空間に時間軸を感じられることは少なく、虚空のようで実存している錯覚をいだく不思議な世界です。

 大きく分けて三つの時空のようですが、終わりの数十ページに作家の考えがあるのではないかと思います。ここを読んでいる時にカラマゾフの兄弟を思い出しました。でも、なぜそれを連想したのかは分かりません。
 起る事象や会話の区切りがアルファベットで始まっているのですが、各アルファベットの順序が入れ替わっても対して問題にならないようなのに、それらが集まると一つのオブジェを形成しているような風変わりな話です。どうしてこういうものが書けるのか不思議です。

 題名は調書とありますが、調書らしき部分は無いように思えます。原題の le procès verbal を直訳すると口頭での手続きとなります。何を手続きしたのかは分かりませんが、手続きをされたようには思えます。