エスペランザ・スポルディングの新現代音楽を聴く

 12 Little Spells

 アルバムタイトルを直訳すると『12の小さな呪文』になる。これは1曲目のタイトルと同じでまさしく呪文のようだ。女性ジャズシンガーなのだけれど、とてもジャズというジャンルだけに収まらない。ヒップホップやR&Bとのクロスオーバーを遥かに超えてゆく音を聴かせてくれる。


 現代音楽と言うとクラシックの抽象画のような無調音楽を思い出すのだけれど、そうではなく現在の現代音楽、リズムセクションのうねりがあってジャズっぽいのだけれど、その枠に収まらず、なんて言えばよいのだろう新世紀音楽と言ったらよいのだろうか、それほどに骨格が新鮮なのです。

 このアルバム全体を通して彼女の詩を唱えるかのような声の響きが流麗で、グレツキーの悲歌のシンフォニーやホルストの惑星の最終章を想起して、それをリズムセクションが包み宇宙空間に気持ちよく漂っている感じになる。彼女のメゾソプラノがリフレインのように導いて、穏やかに心身を包み込み羊水の中で揺られている。自律神経ですら曲調にとりこまれて調和しているかのようで、新しい世紀の音が聴こえる。

 録音媒体はCDです。優れた録音でミキシングも良く、左右に楽器が各々の位置に定位し、ベースは少し奥まって聴こえます。ヴォーカルはセンターにくっきりと浮かび、バンドより少し手前に位置していて彼女の高音域の歌声がよく通ります。

 最近の音楽に漏れず音圧が高く、スマホなどで聴いても音が出やすいようになってます。かと言って、ダイナミックレンジが広いかと言うと、そうでも無くて音圧の中心が大きな方へ振ってあるという感じです。