虚無への供物を読む 中井英夫 著

  密室での死に対して、素人探偵団が推理を展開する探偵推理小説なのだけど、探偵小説三大奇書または推理小説三大奇書と呼ばれている内のひとつです。他に夢野久作『ドグラ・マグラ』と小栗虫太郎『国死館殺人事件』があって、これは既に読み終えた。


 これらのうちで最も推理小説に近いのは虚無への供物であり、文章自体も読み易く、場面の展開を認識し易い。なにせ、ドグラ・マグラはオカルトっぽいし、国死館殺人事件は機械仕掛けのスリラーっぽいように思え、虚無への供物も含めて奇書と呼ぶのがふさわしい。なにせ、虚無の供物の中にドグラ・マグラが出てくるぐらいだから十分に意識されていたのだと思われる。

 話の筋としては、密室での死亡事件が起きた氷沼家の知人たちがにわか探偵団となって、各自が推理を展開してゆく。推理小説の中で推理小説を書いて事件を先廻りして解決してゆこうとする構成が面白いのだけど、ピエール・ルメートルの悲しみのイレーヌの方が洗練されていて舞台の転換も素晴らしく、虚無への供物ではあくまでも読者への余興のように思われる。

 非常に多くの推理がされるのだが、実際に起きる事件で要因を絞り込んでゆくことが如何程に大変な作業かと思わされる。それに本のテーゼは推理小説にあったのではなく、興味本位に揺れ動く民衆なのではないかと思える。

 エンディングのところで、本事件を題材にした探偵小説の終わり方をにわか探偵団の久生が披露するともう一人の探偵団の藍ちゃんが『悪趣味』だと言う。要するに虚無とはゴシップ好きな民衆であり、そこへの供物は本書である。しかし、供物ということは既に我は死んでいるのかしらん。