秋のホテルを読んでみた  アニータ・ブルックナー 著  小野寺健 訳

  アラフォーの女性作家が繁忙期の過ぎたスイスのホテルに逃避行して、結婚と言う人生の終着駅を思いながら心の揺れと年齢に揺れ動くさまを軽快なタッチでかろやかなつむじ風のように通り過ぎるお話し。



 ホテルの話で思い出すのは『ヴェニスに死す』だけど、こちらは作曲家の男性で少年に惹かれるストーリーで心情の揺れや襞が巧みに描かれていた。もうひとつは『この日をつかめ』で中年男性の悲哀がうつろな人生を巧みな描写で浮き出していた。この本も人生の隙間風のような揺れ動きをテーマにはしているし、どことなく寂しさを紡ぐ文ではあるけれど、思うままに生きる気楽さがあり、文章もスラスラと読める。

 なんだか女性が好きそうな夜10時から始まるTVドラマのように思えるのですが、と言ってドラマチックな展開には波風が小さいようにも思えます。