ミルクマンを読んでみた  アンナ・バーンズ 著  栩木玲子 訳

  なんともはや変わった題名で何故かキン肉マンを思い出してしまった。なんとなく〇〇マンと言えばヒーローっぽくなるのだけど、本の中に二人存在していた。一人は牛乳配達をする隠れた人気者、もう一人はテロ活動もする政治集団の一人、まあ隠れた人気者は確かにヒーローっぽいと言える。



 1980年前後のアイルランドを舞台にしていると思う。その当時はIRAのテロ活動が盛んだった時代で、その活動家がいるコミュニティを舞台に日常が描かれている。物事を詮索する思考の表現が現代を表していて、マシンガンのように言葉が並ぶさまが独特で、スプリングスティーンの明日なき暴走が蘇った。

 IRA時代のありふれた日常が通常のありふれた日常とは異なることや、その中での通常の行為が悲しみにくれるときに愛情があるべきところへ戻そうと女性陣の強さにほっとする。

 実に巧みに書かれた本で構成力と表現力がマッチして、展開力も素晴らしくテンポも子気味よくて読みやすい。表面的にはキャッチーで軽く感じるのだけど、奥にあるものはどっしりとして考えさせられるアイディンティーを感じる。

 なかなかイメージでは書けないと思ったら、北アイルランド出身の作家でした。やはり、生活空間に滲み出る文章は生活の中から育まれるのでしょう。牛乳を上手く飲めないタイプですが、本のミルクは多少飲めたのかもしれません。