楽園を読んでみた  アブドゥルラザク・グルナ 著 粟飯原文子 訳

  楽園という題名、旅中に出てくるのは2箇所で数行、容姿の優れた青年になるヨセフの物語り、青年の想う楽園とは少年の面影を孕みながら見染める姿。


 作家はザンジバルの出身、さてザンジバルとはどこにあるのか?ザンジバルという地名は出てくるけれども物語の国は違うようだ。インド人の商人やドイツ人による植民地化の様相が描かれている。ヨセフはイスラムの教えを学んでいる、パキスタンあたりなのだろうか。
 ヨセフは借金の方に商人に引き取られるのだけど、手厚い保護の中で育つ。商売の旅の中で自我が芽吹くのだけど、それは恋のせいなのかもしれない。
 実に巧みで上手い文章に読んでいるのが心地よい、なにか好奇心を抱くような展開や構成はなく、描かれる風景は目に浮かび、その中にいる人物の見て想う情景までもが漂う。川端康成を彷彿とするのだけど文間に漂う阿吽の雰囲気とは違い、人の感情が相互にもつれながらも風景が空間の緊張を与えている。