大名絵師 写楽を読んでみた  野口 卓 著

  写楽の実像に迫るノンフィクションだと思っていたら、写楽の謎を基にした物語だった。ある意味推理小説で犯人を謎解きするのではなく、謎の絵師の謎を展開している。そう考えると推論小説という新しいジャンルなのかも知れない。



 本のタイトルは写楽だけど、主人公は版元の蔦屋重三郎であり、なぞに煙巻く写楽の構成を考える雰囲気は刑事コロンボを思い出した。なぜなら、踊り狂う男を画いた謎の絵師を嗅ぎ当ててしまう推理能力と謎のままにするとぼけた才が浮かんでくるからです。

 写楽の絵がでた史実に基づいて話は展開されるし、その解説どおりの構成になっている。それだとなんだか詰まらなそうと思えるのだけど、そこがキャスティングの妙で実に巧みに語られている。日本の本では久しぶりに痛快で面白くできていて楽しい。

 文章のリズムもよくテンポの速い流れに沿って気持ちよく読める。ここにちょっと情景の細やかさや江戸の風情が書き込まれ、絵を描く写楽の思いや姿が立ちのぼるといいなぁと注文したくなるほど良い本だと思います。

 これだけ構成と内容がしっかりしていると、そのまま映画を作れそうでちょっぴり期待をしてしまう。なんだか空間があったらもっと楽しそう。