小さきものたちの神を読んでみた  アルンダティ・ロイ 著  工藤惺文 訳

  インドに住む幼き双子の姉妹の思い出を振り返るお話し。20世紀後半の時代なので同じ時代の若き頃を書いた『喪失の響き』を思い出したけど、随分と趣は違って青春時代の哀愁感は少なく、『斜陽』のような陰りと退廃のなかにカースト制度の絶対感が漂う。



 中年のころに故郷へ戻る話から始まり、幼き時代へと回想するのだけど、いろいろな場面でカットバックされて時系列に錯覚を覚えるのは読む力が弱いせいなのだろうか。

 複雑な家庭の趣が家族のひとりひとりに照らされて浮かび上がり、丁寧に描写されているのだけど、家族愛というものが希薄でちぎれてゆく様にカースト制度への悲しみを投じているようだ。

 小さきものたちの神を延々と紡がれてきた慣習や文化が塗りつぶす様は悪魔もまた詳細に宿るように書かれていて、本のエネルギーが凝縮しているように思える。