家の本を読んでみた  アンドレア・バイヤー二 著 栗原俊英 訳

  かなり驚く本だと思う。なにせ名前が出てこない、だから主人公の名前すらわからない。そして亀の名も書かれない。父とか祖母とか妻で呼称していて、それである意味十分であり、なぜかたまに出てくる亀が妙にひかる。


そして会話の記述がない。心理描写とかの多い本でも少ない会話はあるのだけど出てこない。そんな本のどこが面白いのかと言われそうなのだが、意外と面白いというかある種の郷愁に共鳴する。

 不思議なのはそれだけではない、年号と部屋の題名がついたエッセイ風な短編で構成され、時代順には出現しないので自分で構成しなおさなければならない。でもなぜか一本の糸があるのには気づく、そりゃ主人公は同じだからなのだろうけど、彼の持つ哀愁が同じ空気を放っている。

 物語としては何にも面白くない、でも本としては面白いところが変である。ローマ生まれの作家だけにASローマの話がたまに出る、しかもスクデットを取った話だ、それは中田英寿の伝説ある試合から始まったことを思い出す。

 あと、年号のない題名だけの短編があるのだけど、どうすればいいのか結構戸惑う自分が面白い。