ドン・ファン(本人が語る) ペーター・ハントケ 著 阿部卓也・宗宮朋子 訳

  ドンファンと言えば女たらしの代名詞なのだけど、本人が語るの注釈がある。本人とはドンファンのことなのだろうか、それともハントケのことなのだろうか、なぜか判然としない。


 ドンファンは出来事を話してはいるけど、胸中は何ら示しておらず、どちらかと言えば従者の語りの方が多いように思う。従者の思いはきっと作者の思いなのだと思うわけで、冒頭の本人が語るの本人が判然としなくなる。

 不思議な本だ、どうもドンファンは突然やってきて7日間滞在したようだけど、時間的な推移はどこにも表れていないように思うし、ドンファンの原型の戯曲を読んでとりつかれた1週間なのかもしれないけど、何を感じたかはほとんど書かれていない。存在に対する空間を創造してあるだけのように思える。