地下で生きた男を読んでみた  リチャード・ライト 著  上岡伸雄 訳

  2024年2月に発刊された本でタイトルを含めて6本の小説がまとめられている。どれも黒人が主人公であり、コペンハーゲン以外では人種差別への無力感が漂っている。


 タイトルの物語はいきなり警官に犯人と間違われて囚われ、自白を強要する暴力が延々と数十ページも続き辟易とされられる。それは一方的に虐めを受けるのと同じことを読者にも強要している。
 彼は地下の下水道に入り込む、そこは彼を保護してくれたようだ。そして地下道を通じて現世界を覗き周り、人々の生活がある意味虚実であるかのように感じ、無意味だと思う。すべての人に死はおとづれる。人生のゴールは死である、でもそれは目的ではない。
 そして彼は地上に這い出るのだけど、それは読者を空白にしてしまう。パンドラの箱もないのである。

 虚無や不条理を扱ったものかと思ったけど、著者のリチャード・ライトは1960年に亡くなられた黒人作家で人種差別のひどい幼年期だったようだ。なるほど、大きな勘違いをしていたわけだ、発刊が新しいだけなのだ。でもそこにある虚無は人種差別がなくなったとしても存在している。