ジョゼフ・フーシェを読んでみた シュテファン・ツヴァイク 山下 肇 & 萬里 訳

 バスチーユ牢獄の暴動から始まるフランス革命時代を生きた政治家ジョゼフ・フーシェの評伝、作家の批評家と言うとそうでもなくてフランス革命〜ナポレオン帝政〜王政復古までの当時の批評のようだ。


 フーシェは警察大臣を歴任した政治家で評判は権謀術家であり、政治の大きな変動を世渡りして生き抜いたが故に裏切り者の烙印がおされたようだ。だけどフランス革命ってバスチーユ襲撃、そしてルイ16世とマリー・アントワネットがギロチンにかけられ、後を引き継いだロベスピエールも短期間のうちにギロチンにかかる。そして出てきたのがナポレンだけどモスクワで負けてワーテルローで沈むまで、激動の26年間(1789~2015)を政治家として生き抜いた。これだけ権力者が変わる中で大臣の座にいるのだから裏切り者という表現だけでは無理があるように思われる。
 ナポレオンが退位した時に政府の総裁になったのにルイ18世へ権力を受け渡している。その役割を主導して大臣に居座ることをルイ18世と密約させたと記されているが、これは裏切り者、権謀術家の冠を無理に着せているだけのように思える。常に冷静で情報取集力と分析力に優れた人物なので、ルイ16世をギロチンに送った一人であるフーシェが王政復古になることは自滅だと考えたのだろうけど、自分で最高権力者として振る舞うまでの意志と性格を持ち合わせていなかったのだろう。
 ナポレオンの妻ジョセフィーヌからも秘密裏に情報を提供してもらっていたようだけど、どのように彼女を説得したのかとか地位を向上するのにどのような手だてをしたかなどは書かれていないし、物語的な部分もなく文章としてはいささか興醒めではある。
 しかし、この人物をモデルに小説を書いたら刺激的でまさにスリルとサスペンスだろう。