街とその不確かな壁を読んでみた   村上春樹 著

 人の営みに伴う精神的な揺らぎや存在への観念がモチーフのような気がするけど、時間的な概念の無い街はよくわからない。それでも繰り返される日々のなかに自分はあるのだろう。


  デビュー当時に書いた作品を40年ぶりに書き直したそうだけど、それまでにも書き直しをしているようで、その困難さが描かれた空間に表れているような気がする。第一部を書いたところで完了するつもりだったらしい。読み直したところ不足を感じて二部と三部が足されたとあとがきに書いてある。それは正解だったように思う、一部で終わってしまったら人の営みのような現実感が無くてそのはざまも無くつまらなかったと思う。
 話の中にジャズの話題がときおり触れられている。著者がジャズ好きなのは知っていたけど、まさかジャズ喫茶の店主であり経営者だと言うのは知らなかった。クラシックにも造詣が深くクラシックレコードを紹介した本があり、そこにクラシックのレコードは3,000枚ぐらいで実はジャズはその倍以上の枚数を持っていると記されていた。
 カフカの城や審判を思い起こす空気感があるけれど、あの得体のない怖さみたいなものはなく、ポールデスモンドのあの柔らかいサックスが日常を感じさせてくれる。どこまでも虚無的であり、使命感のようなもので前に進んでいるけれど、その使命感もまた不要なように書いてくれたらもっと良かったように想う。四部目を書いてくれることを希う。