一日三秋を読んでみた  劉震雲 著  水野衛子 訳

  延津という県は北京と上海の中間に位置しており、夢に花二娘が出てきたら笑い話をしなければ山に圧されてしんでしまうという言い伝えがあるそうです。その言い伝えを基調に庶民の喜怒哀楽が染み入ります。


 物語を読んでいると風合いが獏言を想い起こし、そして昭和のころを彷彿とさせてくれる。人と人のつながる大らかさのような緩い空気感があるのは、時代の持つ世風なのかも知れない。
 文章の巧みさと構成の易しさに軽々と身を持たれながら愉しく読める。展開のリズムも良く、幽霊が出てきたり花二娘が出てきたりと面白い。輪廻転生について考えてみると、もともと生命は一つから増殖したのだから辻褄が合わない、でも宇宙そのものが輪廻転生しているようには思える。
 一日千秋という言葉があるのだけど、表題と同じ意味で日本に伝わってから千に増えたそうだ。中国は広く一夜にして千里を走るなどと言う言葉を聞くと、千秋が中国で三秋が日本のように思えるのだけど、そうではないらしい。

 桜桃さんが起点になって物語は始まり、終わりに桜桃さんの行く末が書かれていて読者への配慮がうれしいです。