地上の見知らぬ少年 ル・クレジオ 著  鈴木雅生 訳

  物語りというよりは、詩の文章だと感じます。地上で体験するあらゆることが未知であり、著者の感動にあふれた空間につつまれて時が過ぎてゆきます。


 表題の見知らぬ少年はたまに出てきますが、彼に感動していることはなく風景の一部として描かれてます。原題は直訳すると『地上の未知なるもの』ですので、原題の方が本のテーマそのものだと思います。売るための邦題ですが、不要だと思います。図書館だけでも凄い数になるのですから。
 地上の光りや海などへの感動が綴られ、言葉や船に移り、顔や人で終わります。各章に論知的なつながりや時間軸の偏移ということは関係なく描かれていますので、各々の絵画を観て楽しむような文章でもありますし、大きな交響詩でもあるように感じます。

 最初のころは綺羅やかな粒がひろひらと舞うかのように明るいモーツアルトのような読み心地で、次第に造形が身近に感じるようになり、終わりごろにはどことなく不協和音がまじるような気がします。
 それでも、地上に起きる現象が多くの感動を与えてくれるエネルギーが文体から無限に拡がるのは心穏やかになります。