ピエール・ルメートルの新しい犯罪小説かと思いきや、序文を読んでみるとデビュー作の前に書いた作品だと本人が書いている。どうもこのジャンルはもう書かないようで、少々寂しい。
『悲しみのイレーヌ』『その女アレックス』『天国でまた会おう』と読んだ本は全て傑作で構図の大胆さと憶測を裏切る展開に機微にふれる描写が見事で感嘆しました。でもこの作品はどの部分も少々粗さがあって、洗練される前の触感があります。でもそれはルメートルだからこそ、その粗さを思うわけでデビュー後の作品が凄すぎるのでしょう。単純に展開の速さとスリル感を味わって楽しめば面白いです。
出てくる人物で高齢な方々が主役的なのが意外ですし、結末もまた意外なのです。このあたりはデビュー作以降を誘引する萌芽なのでしょう。